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第12章
夜になり、夕食が終わると、僕達の宿泊しているホテルで、交換交流会が始まった。
交流会は、ホテルの披露宴会場のような所で行われ、相手の高校からは、僕達の学校の人数に合わせて来ていた。
僕達は最初、各学校に分かれて座っていて、交流会は始まった。
僕達の班は、1番後ろの列に並んで座っていた。
僕の横には松本さんが座っていて、辻本さん原田、鈴木さん近藤の順に座っていた。
交流会は、両校に先生の挨拶から始まり、僕達の学校からは浦本先生が挨拶していた。
僕は、先生が挨拶をしている時、代表挨拶の事を考えていた。
そっと制服の胸ポケットから、挨拶を書いた紙を取り出して、目を通していた。
「浦河、挨拶は大丈夫?」
松本さんが、声を掛けて来た。
「たぶん」
僕は言う、原田が
「昼間走って、覚えた事を忘れたんじゃないか?」
と心配してくれた。
「そうかも。もしかしたら、覚えた事を、学校の机の中に置いてきたかも」
僕は言う、辻本さんが
「それは、私達の学校?」
と聞いて来たので
「違うよ。学校訪問で行った学校」
僕が答えると
「それだけ冗談が言えれば、大丈夫だね」
と言い、松本さんが
「そうだよ。頑張ってね」
と応援してくれた。
相手の高校の生徒が、ステージに上がり、挨拶を始めた。
「アンニョンハシムニカ。・・・・」
その挨拶を聞いた時、僕はびっくりしてしまった、なんと、相手高校の代表生徒は、自分の母国語つまり韓国語で挨拶と出し物の紹介を始めたのだった。
僕は、相手の生徒が日本語で挨拶をするからと聞いていたので、韓国語での挨拶を覚えたのに、相手は韓国語で挨拶し、それを通訳の人が日本語に訳していたのだった。
「何だー。日本語で挨拶をするんじゃなかったのか」
近藤が言う、僕は
「そう聞いていたぞ」
と言った。
原田が
「どうする?。日本語で挨拶するか?」
僕に聞いて来た。
「どうしようかな」
僕は、悩んでしまった。
『日本語で挨拶をするのは簡単だけど、せっかく韓国語で挨拶を覚えたからなでも、通じなかったら格好悪いよな。どうしようかな?』
と思っていた時、僕の席に久保先生がやって来て
「浦河、悪いな。相手は日本語で挨拶をしなかったけど、浦河は韓国語でやってもらえるか?」
と、言って来た。
僕は
「そうですね、せっかく韓国語を覚えたし、通じるか分からないけど、韓国語で挨拶をしてみます」
そう言うと、自分の席を立ち、ステージ横にある、司会者席に向かって歩いて行った。
僕達の学校の出し物は、全員で歌を歌う事になっていた。
歌う歌は、日本の歌を2曲と韓国の歌を1曲の、3曲を歌う事になっていた。
ステージ上にいた相手の生徒が、自分達の席に着いた時、僕はマイクのスイッチを入れた。
そして、挨拶を始めた
「デタヒ、カムサハムニダ・・・・」
韓国語で簡単な挨拶と、これから歌う歌の曲紹介をした。
1曲目のイントロが流れ始め、みんなで歌を歌った。
相手の高校の生徒には、日本語歌を韓国語に訳してある、歌詞カードを渡してあった。
相手の学生の中には、日本語が分かる生徒がいて、一緒に歌っていた。
僕は、歌が終わるまで司会者席にいて、歌が終わると
「カムサハムニダ」
と言って頭を下げ、自分の席に戻った。
『良かった。何とか通じてた』
そう思いながら席に着くと、原田が
「やったな」
と声を掛けてきて
「浦河君、凄い」
辻本さんが言って来た。
松本さんは何も言わず、ジッと自分の膝を見ていた。
「お嬢、終わったよ」
僕が言うと、松本さんは頭を上げて
「聞いてたよ。すごいね」
そう言ってくれた。
その時、席替えをするとの放送が入り、僕達の班の前には、昼間に一緒に走ったヨン君とぺ君それと、女の子4人がやって来て、僕達の前の席に座った。
僕達は
「はじめまして」
「今晩は」
挨拶をした。
ヨン君達も
「今晩は」
と、日本語で挨拶をして来た。僕達の班は運が良かった。
と言うのは、相手の班のキムと言う女の子が、日本語を話せたのだった、その子が通訳をしてくれたのだった。
ヨン君が
「先程の挨拶、良かったです。それに、日本の歌も素敵な歌詞でした」
と言って来た。
僕は
「覚えたての韓国語が通じて良かったです」
と答えた。
そうしているうちに、予定の時間が過ぎて行き、交流会は修了した。
僕と原田、ヨン君とぺ君の4人は、いつかまた、一緒に走る事を約束した。
「もっと、もっと練習して、今度は絶対に負けないから」
ヨン君は、そう言っていた。
僕も
「次も負けないように、練習するから」
と答えた。
僕達は、バスがホテルから離れるまで、てを降りながら見送った。
みんなはバスが行ってしまうと、ロビーに残って話をしたり、部屋に帰ったりしていて
「部屋に帰ろうか?」
僕と原田、近藤が話をしていた時だった。
「浦河君、ちょっと時間ある?」
辻本さんと鈴木さんが、僕を呼び止めた。
「良いけど、何?」
と聞くと
「ちょっと、話があるんだけど」
鈴木さんが言う。
周りを見渡し
「1人?」
僕が聞くと
「うん」
辻本さんが言う、僕は
「と言う訳らしいから、先に部屋に行ってて」
原田と近藤に言いながら、2人に部屋の鍵を渡した
「分かったよ」
「先に行くから、俺達の分のジュース、買って来てくれよな」
「浦河のおごりで」
2人が言う。
「何でー」
僕が言うと
「浦河の気持ちだろう」
「そうだよ」
「だから、何の気持ちだよ」
僕の質問に答える事なく、2人はエレベーターに乗り込んだ。
原田達が乗ったエレベーターの、ドアが閉まったのを確認すると、僕は振り返り
「それで、何かな?」
僕の後ろに立っている、2人に聞いた。
辻本さんは、周りを見渡した。
ロビーには、そんなに人は残って居なかったけど
「立ち話も、何だから」
と言われて、僕達3人はソファーに向かい合って座った。
「松本は部屋に帰ったの?」
いつも一緒に居る、松本さんが居ない事に気がついて、僕が聞くと
「浦河君に話があって、朱音ちゃんには、ちょっと用事が有るから、先に部屋に戻っていてと言って、部屋に帰ってもらったの」
辻本さんが、そう言った直後だった
「浦河君。朱音ちゃんの事、どんな風に思っているの?」
鈴木さんがいきなり、核心をついて聞いて来た。
「な、何で?」
僕は、戸惑いながら聞き返す。
「朱音ちゃんの事、好きなの?それとも、嫌いなの?」
辻本さんは言う。
「それは・・・・」
「嫌いなわけないよね。何時も2人は一緒にいるし」
「でも、告白はしていないよね」
「何で、告白しないの?」
辻本さんと鈴木さんは、次々と聞いて来て
「朱音ちゃんの事、好きなのでしょう?」
と、付け足した。
「何で、そんな事を聞くの?」
2人に聞いたけど
「良いから、教えて」
と鈴木さんは聞く。
辻本さんは
「朱音ちゃんが、体育の授業の時に怪我をしたときだって、1番最初に走って来たし、その怪我の事が原因で掃除の時間に、朱音ちゃんに嫌みを言っている、近藤君からかばったり。教室でも図書室でも何時も一緒に居るもんね」
と言って来た。
僕は、静に
「お嬢が・・・、松本が2人に何か、言って来たの?」
2人に聞き返した。
「何も言って無いよ。ただ、学校で朱音ちゃんと浦河君の事を見ていると、どうなのかなって思って」
「知ってた?今日だって、短距離の勝負の時や、代表挨拶をしていた時も凄く心配そうにしていたよ」
「告白しないの?」
2人は言った。
僕は、しばらく考えて
「松本は僕の事を、どんな風に思っているのかな?」
と呟いた。
「きっと、浦河君の事、好きだと思うよ」
鈴木さんが言う。
「でもそれは、鈴木さんが本人に聞いた訳じゃないよね」
「それは・・・、そうだけど」
鈴木さんは、ちょっと自信なさそうに言う
「でも、いつも2人を見ていると、恋人同士に見えるから、きっと大丈夫だと思うよ」
辻本さんが、応援するように言った。
「そうかな?」
僕は手を組むと、ジッとその組んだ手を見つめた。
僕が、2人にこれだけ言われても
『告白する』
と言わないのには、理由があった。
その理由を話すと、それは、中学時代の事だった。
今の僕と松本さんのように、いつも一緒にいる、仲の良い女の子がいた。
その子の名前は(和美)と言う名前の女の子で、いつも2人でいたので、クラスの中では
[僕と和美ちゃんは、つき合っている]
そう思われていた。
仲が良くて、クラスのイベントでも、2人で参加している事が多かった。
そんなある日、僕に破局の日がやって来た。
つき合っていないのだから、破局になるのか、分からないけど。
その運命の日は、中学2年の3学期、土曜日の放課後の事だった。
授業が終わり、僕が友達と下校もせずに、自分達の教室で遊んでいた時だった。
どんな話の流れから、そうなったのか、今は覚えていないけど、僕が和美ちゃんに告白していない、と言う事がいつの間にか、話題の中心になった。
そして、友達が口々に
「浦河、チャンスだよ。たしか今、和美ちゃん、音楽室に1人で居るから、告白してこいよ」
「何時も一緒にいるのだから、絶対に大丈夫だよ」
「浦河の事を嫌いなら、一緒にいるわけ無いじゃん」
「絶対、うまくいくって」
等と言われて、僕もすっかりその気になって、告白する事になった。
僕は1人で教室を出ると、音楽室に行き、閉まっていたドアを開けて中に入った。
彼女はピアノのを弾いていた。
その時、彼女が誰のなんと言う曲を弾いていたのか、今は覚えていない。
僕はピアノの側まで行き
「和美ちゃん、ちょっと良い?」
声を掛けた。
彼女はピアノを弾いていた手を止めると
「何?」
聞いて来た。
僕は
「和美ちゃんのことが、好きなんだ。・・・僕とつき合ってくれないかな」
精一杯の勇気を出して、告白した。
僕にとって、生まれて初めての告白だった。
彼女の顔を、まともに見ることが出来ず、僕はうつむいて、彼女の返事を待っていた。
どれくらいの時間がたったのだろうか?心臓の鼓動が、彼女にも聞こえているのではないかと思う位、激しく動いていた。
「浦河君」
彼女は静に、僕の名前を呼ぶ、僕は顔を上げると彼女を見た。
彼女は僕を見ていた。
そして、彼女の口から出た
「ごめんね。浦河君とは、恋人としてつき合うことは出来ない。嫌いではないけど、好きでもないから、一緒に居るのは楽しいけど・・・。浦河君とは、今のままの同級生としての関係が、1番良いと思うから、友達としての、このままの関係で居させて」
と言う台詞が、僕の心を突き刺した。
その後、僕がどうやって教室に帰り、友達に何を話したかは覚えていないけど、和美ちゃんの言った言葉
「嫌いではないけど、好きでもない。このままの関係で居させて」
と言う言葉は、今でもはっきり覚えていた。
その後、和美ちゃんとは段々と距離が出来てしまい、中学3年の時のクラス替えで、別々のクラスになった事もあり、会う回数が減って行った。
そして、僕達は中学を卒業し、それぞれ、違う高校に進学した。
どんなに仲が良くても、恋人同志になることは、出来ない事がある。
そんな過去の思い出があったことから、僕から告白すると言う、勇気を忘れさせていた。
僕は、目の前に座っている、辻本さんと鈴木さんを見ると
「お嬢とは、仲良しに見えるからね」
と呟く。
「ねぇ浦河君。明日、ロッテワールドでの自由時間、私達は原田君と近藤君に声を掛けて、4人で行動するつもりだから、朱音ちゃんの事をお願いね」
辻本さんはそう言って、ソファーから立ち上がった。
鈴木さんも
「告白するか、しないかは、浦河君の気持ちだからね。朱音ちゃんはきっと、浦河君が「好きだ」と言ってくれるのを待っていると思うよ。あの子、意地っ張りの所が有るから、自分からは「好き」とは、言わないと思うから。それにあの子、恋愛に関しては、奥手だからね」
そう言って、立ち上がると
「私達は、部屋に帰るから」
と言って、エレベーターに乗り込んで行った。
僕はその場に残り、ソファーの背もたれに、もたれかかり
「告白・・・か。また・・あの時と同じ結果かな」
そう呟いて、目を閉じた。しばらくして、僕の周りが静になっているのに気がついた。
目を開けると、ロビーには誰しも居なくなっていた。
僕はソファーから立ち上がり、ロビーに設置してある、自動販売機で
[麦茶サイダー]
と言う名前のジュースを2本買うと、自分達の部屋に戻った。
部屋の前に行き、ドアをノックすると、原田がドアを開けてくれた。
「遅かったな。何の話をしてたんだよ」
と、聞いて来た。
僕は、買って来たジュースを渡しながら
「色々な。和幸は?」
部屋の中を見渡して聞くと
「シャワー、浴びてるけど」
シャワー室を指差しながら、教えてくれた。
原田は、僕が渡したジュースを見て
「なんだよ、これ!」
文句を言う
「何でも良いだろ。面白そうだから、買って来た」
「まあ、買って来てもらったし、とりあえず飲んでみるかな」
原田はそう言って、ジュースを一口飲んだ、そして、ジュースの缶を僕に差し出して
「浦河、飲んでみるか?」
聞いて来る、僕が
「どんな味だ?」
と、聞くと
「麦茶に炭酸が入ってる」
そう言われて
「じゃあ、いらない」
僕は、即答した。
「そうか。でも、この味は癖になるかもな」
原田は、ジュースを飲み干した。
「あっ、そう。じゃあ俺、先に寝るから」
僕は、シャツを脱ぎながら言うと、ベットに横になる。
「浦河。風呂はどうするんだよ?」
原田が聞いて来る。
「明日の朝に入るよ。夕方に一度シャワーを浴びたし、今日は色々あって疲れたから。・・・おやすみ」
そう言って、布団にもぐり込んだ。
『明日、本当に松本と2人だけになるのかな?。松本、嫌がらないかな?。そこれって、デートになるのかな?』
そんな事を考えているうちに、僕は眠りに引き込まれていった。
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