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第13章
次の日
午前中はソウル市内にある明洞(ミョンドン)と言う、東京のアメ横みたいな所で、お土産を買い、昼食を取った後、みんなが待っていた、ロッテワールドにバスは到着した。
ロッテワールドとは、ソウル市内にある
〈ロッテワールド・ショッピングモール〉
と言う、ショッピングセンターの中にある、室内型遊園地の事で、遊園地以外にも、レストラン街やショッピングストリート等色々な店が並んでいる、総合ショッピングセンターだった。
ただ僕達は、迷子になっては困るので、遊園地以外の場所には、行かないように言われていた。
入口で、ロッテワールドのパスポートを先生から受け取ると、入口のゲートをくぐった。
平日の昼間だからなのか、園内に人は少なく、どのアトラクションも並ばずに乗れるような感じだった。
ゲートの先には、アライグマのキャラクター
ロッティーとローリー
が出迎えてくれた。
「よーし、行こうぜ」
何人かの同級生は、絶叫マシンの方に走って行くのが見えた。
パーク内を、色々なグループが、お目当てのアトラクションに向かって行く。
僕達の班で、近藤が
「どれから攻めようか?」
と言った時だった。
鈴木さんが
「原田君、近藤君、私と美咲ちゃんと一緒に見て回らない?」
と2人を誘った。
原田は直ぐに賛成して
「いいよ。行こう。こんな所は、男同志で回るより、女の子がいた方が、楽しいよな」
と近藤の肩を叩いた。
「そうだな」
「よーし、ダブルデートだ」
原田と近藤は、鈴木さんと辻本さんの後ろをついて行ってしまった。
その場には、僕と松本さんが残された。
「行っちゃったね」
僕が言う
「そうだね」
松本さんが答えた。
昨夜、ホテルのロビーで辻本さんが言ったとおり、僕と松本さんは、置いていかれてしまった。
「お嬢、どうしようか?やっぱり、みんなと合流する?」
「浦河が私と2人でいて、嫌で無いのなら、合流しないでも良いかな?」
「僕は、かまわないよ。それなら、どのアトラクションから乗る?」
と聞く、松本さんは
「私ね、ジェットコースターに乗ってみたいな」
と言って来た。
「それじゃあ、1番初めは、ジェットコースターで決まりだね」
と僕は言い、2人で歩いてジェットコースター乗場に向かった。
ジェットコースター乗場は園内の、端の方にあったので、他のアトラクションを見て回りながら歩いた。
歩きながら、僕は
「2人だけだと、デートみたいだね」
と、昨夜思った事を聞いた。
「そうだね。でも浦河、本当に私と一緒で良いの?」
「良いよ。松本こそ、良いの?」
「うん」
彼女は、小さくうなずいた。
「さっき原田が「ダブルデートだー」って、叫んでいたけど、浦本先生が聞いたら、飛んでくるかも」
「そうね。でも、私達は良いのかな?」
「いいの、いいの。僕と松本はある意味、先生達の公認だから」
僕は笑いながら言う。
「もう」
松本さんも、笑っていた。
僕達が、ジェットコースター乗場に着いた時、何人かの同級生が順番待ちをしていて、僕達を見るなり
「来るのが遅いぞ」
「俺達、次で3回目なんだ」
等と、言って来た。
「乗り過ぎだろう、他のアトラクションも有るから、行ってこいよ」
僕は、呆れた様に言った。
「お前らこそ、デートか?」
そう言われた時
「そうだよ」
僕は、答えていた。
「やっぱりな。浦本には、注意しろよな」
そう言ってくれた。
松本さんが、体育の授業中にハードルで転んで怪我をした時、僕が1番に松本さんの側に駆けつけたのを、走り終えた同級生が見ていて、更に、その後の職員室事件も、噂になっていた。
乗場でパスポートを見せて中に入った。
ジェットコースターは、車両は赤色で7両編成だった。
僕と松本さんは、先頭車両に2人並んで乗り込んだ。
発車のベルが鳴り、ジェットコースターはプラットホームを離れて行った。ジェットコースターは、天井すれすれまで上がって行く、天井近くまで上がった所で
「頭、打ちそうだよ」
隣に座っている、松本さんに声を掛ける
「・・・・・」
しかし、彼女は黙ったまま、バーをしっかりと握っていた。
そして、ジェットコースターを上げている、ベルトの音が止まり、一瞬の間を置いて、一気に滑り降り始めた。
「うわー」
「きゃー」
「うぉー」
後の方から声が聞こえて来た。
僕は両手をバーから離し、万歳をするみたいに手を挙げた。
ふと、松本さんの方を見ると、一生懸命にバーにつかまっていた。
「大丈夫だよ」
彼女に聞こえるか分からないけど、声を掛けて、バーを握っている彼女の手の上に、僕の手を重ねた。
松本さんは、僕の方を見た。
僕は、声を掛けるかわりに、彼女を見て
ニコッ
と微笑んで見せると、松本さんはバーから片手を離し僕の手を握りしめた。
右に左に振られながら走っていた、ジェットコースターは急にブレーキがかかると減速して、プラットホームに戻って来た。
僕はベルトを外すと車両から降りた、そして右手を松本さんの前に差し出して
「つかまりなよ」
と言った。
松本さんは、僕の右手を両手で持ち
「ありがとう」
と言いながら、車両から降りた。
僕は松本さんと一緒に、ジェットコースター乗場を離れると、近くのベンチに座っていた。
「大丈夫だった?」
僕が、心配そうに聞くと
「ちょっと怖かった、けど・・・」
「けど、何?」
「浦河が、手を握ってくれたから・・、怖くなかったよ?」
ちょっと照れた様に松本さんは言う。
彼女の目には、うっすらと涙の跡があった、僕は
「ジェットコースター、苦手だったの?」
と聞くと
「本当は、あんまり得意でないよ。今日は、浦河が居てくれるから、大丈夫だと思って」
と言って来た。
「そうなんだ。・・そうだお嬢、喉かわいてない?」
ベンチから立ち上がり
「ちょっと待っててね。何か飲み物、買って来るから」
「えっ」
松本さんの返事を聞かずに、近くにあった屋台に走って行った。馴れない英語を駆使して、コーラを2つ買うとベンチに戻った。
「はいよっ」
そう言って、紙コップに入ったコーラを渡した。
「ありがとう」
松本さんはコーラを受け取ると、一口飲んだ。
「次は、どうする?」
僕が聞くと、松本さんはパンフレットを取り出して
「後30分位で、パレードが始まるみたいなんだけど、一緒に居てくれる?」
と聞いて来た、僕は他にも乗ってみたいアトラクションがあったけど、松本さんと一緒に居たいと思う事が強く
「良いよ。パレードが始まるまで、ここに座っていよう」
そう言って、2人並んでベンチに座っていた。
座っている僕達の前を、グループで動いている同級生やデートをしているカップル達、1人でいる同級生が右へ左へと歩いたり、走ったりしていた。
その他にも、地元韓国の人達も、時々通り過ぎて行った。
僕は
「色々あったけど、韓国の修学旅行も悪くなかったね」
と彼女の方を見ながら言う、松本さんも
「そうだね」
僕を見ながら答えた。
2人がちょうど、向き合っている時に近くを歩いていた赤井が、僕達に気がつき
「お前達、こんな所で見つめあっちゃって、キスでもする気か?浦本に見つかると、停学になるぞー」
なんて言って来た。
僕が
「うるさいなー。そんな事より赤井、こんな所で油を売っていていいのか?さっき彼女が探していたぞ。待ち合わせをしているんじゃないのか?」
と言ってやった。
「えっ!いつだよ」
驚いたように聞く。
「5分位前かな」
「ヤベー」
赤井はそう言うと、メリーゴーランドのある方に走って行く。
「浦本に見つからない様になー」
走って行く、赤井の後ろ姿に、僕は叫んでいた。
「こっちをからかう前に、自分の方をちゃんとしろよな」
ちょっと怒ったように、松本さんに話しかけた。
「そうよね」
「また、からかわれちゃったね」
「いつもの事だもんね」
松本さんは、笑いながら答えた。2人でベンチに座っている時、僕は昨夜の事を思い出していた。
『辻本さんと鈴木さんは、告白すればと言っていた。今、この場所には僕と松本さんの2人しかいない。告白するには言い場面かも知れないけど、中学の時みたいに断られたら、この後、どうすれば良いか分からないし・・・。残りの高校生活でも、今までみたいに彼女と、接する事は出来ないし』
そんな事を考えていた時
「浦河、浦河」
と松本さんが声を掛けて来た。
「どうしたの?」
心配そうに言う。
「何でもないよ。それより、パレードはまだかな?」
そう言って、誤魔化した。
「あとちょっとだよ」
彼女は腕時計を見ながら言う。
「じゃあ、よく見える場所で、パレードを見ないとね。場所、探しに行こう」
「うん」
僕は松本さんの返事を聞き、彼女と手をつなぐと、一緒に歩き始めた。
この時、自然と手をつなぐ事ができた。
そのうち、僕達のまわりにも、同じようにパレードを見るカップルや家族連れが沢山集まって来た。
「綺麗だね」
松本さんが聞いて来た。
「本当だね」
僕は答えた。
このパレードを見ている間中、僕達はずっと手をつないだままでいた。
『このままでも、良いかな?』
僕は、そんな事を考えていた。
結局、僕と松本さんの間に目に見えた進展はなく、修学旅行の日程が修了し、僕達は韓国を後にした。
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