第18章

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第18章

入院してから3週間もすると、僕の足のギプスも取れて、リハビリを始めていた。 あの日の告白以来、松本さんは毎週土曜日の放課後には必ずと言っていいほど、お見舞いに来てくれていた。 僕が松葉杖をついて歩けるようになると、病院の屋上が僕達のデートスポットに成っていた。 病室から屋上まで、2人で歩いている時に 「歩きづらいよ」 等と僕が言うと 「私の時も、そうだったよ」 松本さんは言う 「さすが、経験者の言う事は違うな」 なんて、からかうと 「もー」 彼女は、怒ったふりをした。 病院の屋上には、ベンチが設置して有って、日光浴が出来るようになっていて、天気が良い日などは、看護婦さんがベットのシーツを干していた。 僕と松本さんが、屋上に着いた時、屋上で新人看護婦の里美さんが、ちょうどシーツの干していて 「あら、今日もデートなの?」 とからかって来た。 僕達は2人でよくいるので、病院の中でも有名に成っていた。 「今日も、洗濯ですか?」 「そうよ。沢山有るから、大変なの」 シーツを干す、手を止めずに、里美さんは返事をした。 僕達は、仕事の邪魔にならないように、ベンチに座り話をしていて、誰々が付き合い始めたとか、誰先生が変な事を言ったとか、その週に学校であった事を松本さんが教えてくれた。 「浦河君、シーツ干し終ったから、下に行くね。ごゆっくり」 看護婦さんは、そう言うと屋上から降りて行った。 屋上には、僕達だけになった。 僕は 「松本。一つだけ聞いて良い?」 と切り出した。 「一つだけね」 彼女は答える。 「意地悪だなー」 僕が言うと 「嘘よ。それで、何?」 微笑みながら聞いてくる 「・・いつから、僕の事・・・好きになったの?」 戸惑いながら僕は聞いた、彼女は少し考えると 「いつからだったか分からない。ただ2年になって、浦河と同じクラスになって、同じ班になって・・・初めの頃は、本当にただの同級生としか見ていなかったの」 「そうなの?」 「毎朝、2人で話していて、浦河の存在が、私の中で大きくなっていった時、あの職員室の事があったの。それから、浦河の事が段々と好きになっていったの」 松本さんは恥ずかしいのか、僕の方を見ずに答えた。 「浦河は、いつからなの?」 「何が?」 「もー。私の事を好きになったのは、いつからなの?」 松本さんが、逆に聞いて来た。 「僕が初めて松本に気がついたのはね、去年の体育祭の時だったんだ。その時は可愛い子が居るなって、思っただけだったけど」 「可愛い?」 「そう、可愛い子。それで、友達になれたら良いなと思っていたら、同じクラスになれて、同じ班になれたんだ。僕も初めは自分の気持ちに気がついていなかったけど、松本の足の怪我の事で、職員室での和幸の態度を見た時、僕は松本を守らなきゃって思って。それで、県大会で優勝して、告白しようと決めていたら、事故に遭っちゃって・・・でも、結果オーライだったかな。松本と付き合えるようになったし」 僕は、彼女を見ながら話した。 「じゃあ、2人とも、職員室の事がきっかけなんだ」 「そうだね。ある意味、和幸には感謝しなくちゃいけないかな?」 僕は笑いながら言う、松本さんも 「そうかもね」 と笑っていた。 入院中、他の同級生のお見舞いもあったけど、ちょっと話すと直ぐに帰って行っていた。 松本さんは、いつも長い時間一緒にいてくれた。 病室で話をしてから、松本さんが帰る間際になると、自分のバッグからノートを取り出して 「ハイ。今週の分」 と言って、僕にノートを渡す。 ノートは教科ごとに分けられていた。 「ありがとう」 僕はノートを受け取ると、パラパラと中を見る、綺麗な字で細かく書いてあり、黒板の内容だけでなく、先生が言った事や、説明等も書いてあった。 「ちゃんと勉強していてね」 そう言うと、荷物を持ち病室のドアまで行き 「またね」 松本さんは言う。 「いつも、来てくれてありがとう」 僕が言うと 「そうそう。いつも、今みたいに、素直なら良いのにはね」 冗談ぽく言う、僕は 「その台詞は、箱に入れてリボンをつけて、丁重にお返しします」 と、まるでプレゼントの小箱を両手で渡すかのような振りをしながら言うと 「また、そんな事を言う」 彼女はベットの側まで戻って来た。 僕はそんな彼女の手を引き 「松本」 名前を呼び抱きしめると、唇にそっとキスをした。 もう何度キスをしただろう。 2人だけで居ることの出来る、この時間が僕は好きだった。 面会が終わり、帰る時は、どちらからともなく肩を寄せていたのだった。 「早く良くなってね」 彼女は言う。 「お嬢のお見舞いが、僕にとっての最高の薬だよ」 僕は照れながら言った。 「もー。照れるなら言わないでよ。私まで恥ずかしくなってくる」 松本さんは笑いながら言う。 「じゃあ、もう言わない」 僕が言うと 「あー、そんなことを言ったら、もうお見舞いに来ないよ」 怒ったふりをして、松本さんは言った。 「ごめんなさい」 僕は謝る。 「じゃあ、許してあげる」 彼女はニコニコしながら言った。 そして、病室のドアを開けると、 「また来るね」 そう言うと、松本さんは帰って行った。 僕はベットに横になると、お見舞いでもらったマンガの本を取り出して読み始めた。 松本さんが帰って、しばらくすると、病室のドアがノックされ、担当看護婦のゆいかさんが病室に入って来た。 ゆいかさんは 「浦河君、リハビリの時間だけど、用意は良いかな?」 と声を掛ける。 「大丈夫ですよ」 僕は読んでいたマンガの本を片付けながら答えた。 「それより、いつもお見舞いに来ている女の子は、彼女なのかな?仲が良いわよね」 と言う。 「そうですか?」 僕が聞くと 「お似合いよ。でも、早く退院して、外でデートしたいからと言って、リハビリを頑張り過ぎは、絶対にダメだからね」 と注意した。 僕は 「分かってます。無理はしないつもりですから」 と答えながら、ベット横に立て掛けてある松葉杖を取り出すと、ベットから起き上がり、看護婦さんと一緒にリハビリに行くため、病室を後にした。
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