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胸騒ぎがした。
こういったときは決まって何かが起こる。
焦燥だけが胸を張り裂けんばかりに拡大を続ける。
いけないと分かっていても、本能が脚を進めさせる。
光がほとんど届かない闇の中……
全てが息を殺す漆黒の世界。
その中をよどみなく脚は進んでいく。
そうしてどれだけ歩いただろうか?
気が付けば、水の流れる音がした。
さらには、ぼぅっと闇夜に浮かぶオレンジの光……
「うそ……」
思わず声が出てしまった。
あり得ない……
こんな所に火があるなんてあり得るはずがない。
そんな……
そんなことをする人間が未だにいるのだろうか?
動悸が激しくなるというレベルの話ではなかった。
悪寒がする。
足下が竦むかのように、上体がふらつく。
それでも確かめなければならない。
それが役目であり、私の背負う業だから……
業が業を生かし……そして、私は今日もここに存在する。
運命は、私を業から逃がしてくれることはない。
はぁ……はぁ……はぁ………ッ
……はぁ………はぁ……………はぁ……ッ
震えながら私はゆっくりと、足音を立てないように進む。
長年此所にいるおかげで、気配の殺し方は熟知していた。
最初は何の取り得もなかったのに、慣れというのは恐ろしいものだった。
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