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<季題>
凍つ(凍てず)、併せて葉の陰並びに隠り
<季節>
晩秋から冬
葉の陰:
字綴及び音韻から「草葉の蔭」、即ち「墓場」や「死」が容易に想起されよう。この暗喩を解釈・観賞に採り容れて好い。
実際の生態では、小動物が風雪・凍結を避け得る物陰全般に相当する。即ち、落葉・腐葉土等の葉陰ばかりでなく、倒木・朽木や岩石・土塊等の陰。
や:
係助詞ではなく間投助詞。俳句特有の詠嘆を表し、またこの句では初句切れの切れ字ともなっている。
隠(り):
こも(り)。「隠れる」・「潜む」・「退く」等の意。ここでの連用形は連続・原因を表す。
この句全体の字綴から、山本常朝の『葉隠(葉可久礼)』が示唆される、と解釈しても好い。ただしここでは、あまりに著名な一節『武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり』等に表れる、理想とすべき忠義のあり方を示した思想書や、男色にまで及ぶ作法を指南したビジネスマナーマニュアルとしての作品理解は、句の主題に妥当させないものとする。この句の主題はむしろ、(三島さえも含めた)これら一般的な『葉隠』への理解・評価、またその主題自体に、真っ向から対立するものである。敢えて謂うなれば、「死」に直面した中で強かに「隠り」耐えて生き延びる様を粛々と示す『今様娘武士道(いまようむすめぶしどう)』、といったところか。
凍(て):
字義通り「凍る(また、凍りつく)」の意だが、ここでは「凍える(そして死ぬ)」の意も含まれると解釈されたい。
ざる:
打消の助動詞「ず」の連体形。直前の「凍つ」のみを打ち消し、直後の「紅娘」を修飾。
紅娘:
字綴通り「べにむすめ」として好い(因みに英語では一般に lady bird 等とされている)。字余を好しとするならば「てんとうむし(天道虫)」。
種毎の食性により、害虫と益虫に大分されることが広く知られている。主にナス科やウリ科植物の葉を摂食する植食性の種は害虫、アブラムシやハダニを貪食する肉食性の種は益虫となる(また一部ウドンコ病菌等を摂食する菌食性の種も広義の益虫と考え得る)。甲虫ながら大半の種が成虫で越冬するため、一般に親しまれるナナホシテントウやナミテントウ等の益虫は生物農薬としての活用を視野に据えた研究対象となっている。
生態上の越冬行動では、専らの種が大小の差こそあれ何らかの群体を形成し熱の維持保存を図る、という形をとるが、この句では単複不問とする。また蛇足ながら、「紅娘」と綴られるも雌雄不問。
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