一章 理科室の住人

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 秋の夕暮れに茜色が広がる。  校門を抜けて帰り道を歩く純の後ろを知世が着いてくる。  純と知世の帰り道は同じだ。生まれた病院も同じなら、家も隣同士で家族ぐるみの付き合いになる。それだけに付き合いは長い。 「ねえ、純君。もしかして、私とカケル君が抜け駆けしたことを怒っているの?」  横断歩道の信号が変わってしまい、足止めを食らった純に知世が小さく聞いた。 「少しだけ。僕もあの噂には興味があったんだ」  純は、嘘を吐くことが嫌いだ。  素直に答えて信号が変わる瞬間を待つ。横断歩道を渡れば公園がある。公園から家までは十分あれば辿り着く。  知世の話は公園で聞くつもりだった。流石に家には呼べない。  ひとつ上の姉に冷やかされるのが目に見えている。 「ごめんね。仲間はずれにした分けじゃないんだよ」  信号が青になり、北風が通りすぎた。信号待ちの人々も動き出す。 「いいよ。もう。カケルのことだから知世にかっこいいとこ見せようとしただけだと思うし」 「――え?」 「公園で話を聞くよ。もう少し詳しく話を聞かせて?」
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