一章 理科室の住人

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 知世のピアノはいつまで聴いていても飽きない。なんでもかんでも飽きてしまう純には珍しいことだった。 「俺が発表会に行かなかったことがある?」  純は思い返して訊ねた。  知世の発表会は全部聴きに行っている。純は、カケルよりもずっと前から知世と知り合いなのだから当然のことだった。 「それはそうだけど」 「台風が来た時も自転車で出掛けたよ。大雪の日は長靴を履いて、ひと駅歩いた」 「覚えているよ。覚えているけど、純君、そのあと風邪引いちゃったじゃない」 「今はその話じゃなくて、俺は毎回、知世の発表会に出向いてるってことを言いたいんだ」 「だけど、あのお屋敷に行くんでしょう? 私も行く。今度は昼間に行けば危なくないと思うの」  知世が握り拳を作る。怖がりなくせに負けず嫌いだ。  知世を止めても無駄なことは純が良く知っている。  そして純も屋敷に行くことを諦めるつもりはなかった。  理科の実験にも飽きたのだ。燃やす材料が違うことで炎の色が変えたり、手動でエレベーターを動かす実験は二回もやれば飽きる。
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