第2章

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ローファーに足を差し込み立ち上がる。 玄関を出ると杏が鍵を持って待っていた。 俺が玄関の扉を閉めると杏が鍵を差し込む。 カチャンと小さな音がして鍵が締まった。 「そう言えば、母さん起きてなかったみたいだけど、起こさなくてよかったのか?」 「え、良いんじゃない、いつもより時間が早いし」 そう言いながら腕時計を見せてくる。 六時二十分を指していた。 いつもより一時間以上早い時間だ。 俺はそんなに早い時間に起きたことにもう一度驚く。 先週、文化祭があった日に俺はこんなにも早く家を出ただろうか。 しかし思い出そうとするとぼやっと霧がかかったように思考が停止する。 確かに一週間前に同じように文化祭に参加していたのは覚えている。 だが、細かい部分の記憶が完璧に欠落していた。 なんだか意図的にそのあたりの記憶がないように感じて気持ちがわるい。 なんだこれは。 さっきまでは、あんなにはっきりしているかのように感じた記憶が曖昧なものにかわっている。 俺は動きを止めて、思考に集中する。 しかし、出てくるのは断片的な情報ばかり。 せいぜい、どのクラスの出し物がどこにあったのか程度だ。 こんなものは、パンフレットを見ればいくらでもわかる。 「本当に大丈夫? 調子悪いの?」 動きを止めた俺を覗き込むように杏が聞いてくる。 俺は首を左右に振った。 「大丈夫、少し眠いだけ」 杏は釈然としていないようだったが、頷いた。 「時間あるし、今日は歩いていこうか」 俺はその提案に頷いた。
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