第2章

3/5
前へ
/44ページ
次へ
いつもは自転車を使う道を歩き始めて数分。 俺は前を行く杏を見ながら考える。 不思議だ。 俺は一週間前、文化祭の日を実行したはずだ。 それは俺の学校で起こった自殺未遂と言う大事を憶えていると言う点で証明されている、とは思う。 だが、細かなこと、例えば一週間前俺が何時に家をでて、何時に学校に到着し、友達とどんな話をして、文化祭のどんな出し物に参加したのか。 それが、それらの記憶が、一切消え去っている。 一つくらいなにか些細な事でも思い出せたらいいのだが、全く思い出せない。 思い出そうとするとモヤッと頭の中に霧が掛かったようになる。 霧がかかるということは忘れてはいないということなのだろうか。 何かに思い出すのを邪魔されているのだろうか。 ふと、杏の方を見ると右腕にブレスレットをしているのをみつけた。 あのブレスレットは、たしか……。 「なぁ、おまえ」 俺が声をかけると杏は振り向く。 「そのブレスレットいつ買ったんだ」 腕を指差すと杏は少し笑った。 「綺麗でしょう、先週の月曜日に買ったんだ」 誇らし気にいう杏を見ながら俺は曖昧に頷く。 杏はそれが不服だったのか少し頬を膨らませた。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加