第1章

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「帰るか」 俺は隣の妹に声をかける。 「えっ……」 でも、と突然の提案に口ごもり鍵と俺の顔を交互に見る妹の手を半ば強引に引っ張るようにしてその場を動こうとする。 周りの者がじろじろと見てくるが気にしない。 教師は鍵が降ってきたことに気づかないのか気にしていないのか何も声をかけてこなかった。 「鍵はその辺の誰かに渡しておけ」 「え、あ、っちょっ……」 妹は口では立ち去ることに異議を唱えるが、足は突っ張ることなくそのままついてきた。 飛び降り自殺。 落ちた時にかかる自殺者への力はかなりのものだろう。 顔などの形は残るのだろうか。 そういえば電車への飛び込みは頭だけ最初に飛んでいくらしいと聞いたことがある。 少し想像しそうになったのをあわてて振り払う。 そんなものを妹には見せたくなかったし俺自身も人の死を目の当たりにする覚悟などなかった。 彼女がどんな思いを抱いて鍵をこちらに投げたのは気になるが、助けに来てくれと言う意味ではないはずだ。 たぶん、自分の退路を断つためだろう。 俺はそんな風に決めつけてさらに妹を引っ張った。 いまさら助けに行ったって無駄だ。 自分にそう思い込ませながら帰宅の足を速めた。
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