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「ぇ、」
「あれ、もしかして無意識…ですか?」
「た、たぶん……」
自覚してなかった。
俺、さん付けで呼んでいたっけ、か?
「でも、そのままで良いですよ?俺、和泉先生に、さん付けで呼ばれるの好きです」
「は、はぁ…─」
ようやく、隆宏から白那は離れ、隣の椅子に座る。
隆宏はパソコンの画面を眺め、白那のくれた珈琲缶の口を開ける。
「……」
俺、普通に会話しちゃってたな。
でも、話してみると、気が効くし、今みたいにアドバイスしてくれる。
悪い奴ではないんだろうけど、
「そういえば、和泉先生って担当科目は科学でしたよね?白衣とか着ちゃったりするんですか?」
「…ほとんど毎日…着てます」
「そうなんですか?なんか、意外かなぁ。和泉先生は自分と同じ分野が得意かと思っていたので」
「法学系は…苦手……です」
「………法学、ですか」
あ、
歴史だとか、社会だとか言わないから、つい、大学にいた頃と同じように法学と言ってしまった。
特に問題がある訳でもないけれど、あきらかに、白那はその言葉に引っかかった。
「和泉先生は…なぜ、教師を目指そうと思ったんですか?」
「ぇ、」
やっぱり、苦手だ。
この質問、わざとだ。
「……安定した職……だったので」
「まぁ、安定はしてますね」
隆宏の歯切れの悪さを見てか、白那は苦笑いを浮かべて、この話を続けることを止めた。
でもきっと、
白那は隆宏が、好きで教師になった訳ではないってことに、薄々気付いてしまっただろう。
法学、なんて。
普通、使わない。
それこそ、そういう専門を扱ってる大学でもない限り。
はぁ。
本当、今日は最悪だ。
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