性癖

11/63
前へ
/272ページ
次へ
「………うぅ、わ」 生徒達の微妙な反応。 はぁ。 なんで正直に吐いちゃうんだろ。 理科準備室の椅子に寄りかかり、デスクの上に置いてあるコップの飲み口を指でなぞる。 そして、ため息を吐いてしまう。 コンコン── ガチャ── 「…………」 そうだ。 呼んだことすっかり忘れてた。 もぅ、説教する気すら起きない。 「………帰ってもいいですよ」 「せっかくのお誘いをムゲにするもんですか」 にっこり、と。 白那さんの笑顔。見飽きたなぁ。 「よいしょ」 適当な椅子を白那は引っ張ってきて、隆宏の近くに座る。 にこにこしてる。 「あれ、本当ですか?」 「……………?」 カタカタカタ── パソコンで文字を打ち込む。 なんか、話すのめんどくさい。 『なんの話ですか』 「……久々に出たな、これ。 なんの話ですかって、教室で話してたことですよ。あれだと教師になる気なかったみたいな感じじゃないですか」 「…………」 『本当のことです』 あーぁ、めんどくさい。 「ま、マジなんですか、あの話」 『マジです』 「が、学者を目指していたっていうことも、ですか?」 『嘘じゃないです。 学者を本気で目指して、自分は学者になるものだと思っていました。 学者と言っても、科学オンリーですが』 「………なら、なんでそんな夢を譲ったりなんか」 『それは嘘です』 「は……、?え、嘘?」 『譲る訳ないじゃないですか。 学者にならなかったのは……、大学に通えなくなったからです』 「………ぇ、?な、なにそれ。金?」 『そうですね。金です』 「…なんだよ、それ」 『白那さん。世の中は金で回ってるんです。こんなの、良くある話じゃないですか。 まぁ、お陰でこういった良い職に巡り会えたのですから、感謝しないといけないですね』 「感謝ってなんにだよ」 あれ……、 なんか、怒ってる?? なんで? 『それはもちろん、世の中の理というものに、じゃないですか?』 まぁ、半分は恨んでたりするんだけど。 「ざけんな。 和泉の夢ってそんなもんかよ。 学者の夢なんてそんなもんだったのかよ」 「…………………」 なんで… アンタが怒るんだよ。 俺が怒れなかった分、代わりに怒るかのような、そんなの。 やめろよな。 俺だって…好きで諦めたわけじゃないのに。
/272ページ

最初のコメントを投稿しよう!

279人が本棚に入れています
本棚に追加