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「でも、白那さん」
「……?」
「それ、私手伝いませんからね」
白那から離れ、隆宏は言葉を口にする。
「ぇ、ちょ、」
「今朝の仕返しです。あんまり部屋、汚さないでくださいね」
パタン──
隆宏は白那を残して、理科準備室から出た。
大きな溜め息を吐いて、教員室に足を勧めようとするのだけど、
「っ、わっ、…っ、」
ドサッ───
なにもない場所で転んでしまう。
幸い的に、周りには誰もいないから、見られたということは無い筈だけど、
「……恥ずかしい…──」
立ち上がって、パタパタと埃を払う。
そして、再び歩き出す。
「…はぁ……─」
なんか、嬉しいな。
気付けたこと。
いや、気づかされたこと、か。
でも、なにも知らぬままよりはマシで、きっとこれで俺は…前に進めるんじゃないかな。
怖がっていたら、なにも始まらない、か。
その通りだな、ほんと。
ゴッ──
「ったぁ…──」
なにを俺はボーッと……
「あ…すみません」
「ぃぇ……こちらこそ」
隆宏がボーッと歩いてしまっていたからか、隆宏がぶつかってしまった人は謝ってくるので、反射的に隆宏も謝ってしまう。
……─学生…??
でも…ここの学生じゃ…ない、な……
「あ………名前なんていうんですか?」
「え…、……??い、和泉…隆宏です」
「隆宏先生…ですか。お若いんですね」
「………よ、良く言われます」
なんだろ、この学生…─
「僕は、桐谷朔っていいます。
隆宏先生は……、女性のような声をしているんですね」
「っ…─」
悪気がなくて言った訳じゃないのは解っている。だけど、なんだろう。
やっぱり、こういうことを言われると、結構響くな。
「僕、明日からここに通うんです。
よろしくお願いしますね、隆宏先生」
爽やかな男の子だな、なんて。
そんな風に思ってしまう。
朔は笑うことなく、手を差し出してくる。
少し戸惑うように手を出せば、朔は無理矢理に隆宏の手を握ってくる。
「あ、そうそう。僕、美術が好きなんです。今度、モデルになってくれると嬉しいです」
「は……はぁ…」
変な子だな…─
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