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「物じゃない」
頑張れ直哉。
「御形の持ち物。誰にも渡さない」
御形の迫力に、直哉が負けて後さずる。
「ど、どういう理屈…」
「二人とも、もう御形の家族で宝物だからな」
宝物、そういう扱いじゃないような、これ。
脅されているような、脅迫されているような。
「黒井、外ちょっと散歩しよう」
御形に連れられて外に出ると、月が落ちそうに大きかった。
「黒井、キスしよ」
寺の片隅で、御形に抱き込まれて顔を強引に押さえられる。
「嫌か?」
嫌だといいたい。けれど、御形の真剣な目が俺を見ていた。この目の中に、俺が映っているのだろうか?
見つめ合うと、自然に唇が重なっていた。触れ合うと、それ以上に繋がりたくなる。人間は不思議だ。
「キス以上はなしだ、御形」
最初に釘を刺しておこう。月が見ている。ここは公共の場だ。
「分かった」
でも、御形、俺の耳朶を噛んだり、首を舐めたりとしたい放題だ。
クスクスと小さな笑い声が聞こえた。俺は、御形に脱がされていた服を、慌てて着た。キスだけが、御形にはどのように聞こえるのか、いつも上半身は好き放題にされている。
「座敷童が遊びに来ている、気にするな」
俺の結界、無視か。悪意が無い分、ひっかからないのだろう。
「それより続き」
「断る」
座敷童に見られるのも嫌だ。
「いつになったら、最後までできるのだろうな」
それは、一生無いだろう。
「肉体関係って重要なのか?」
俺には、よく分からない。弓削と伊庭の場合も、今のままでいいような気がしていた。けれど、そうではないのかもしれない。
「心は見えないから、体感しない。体は正直で、心が見える気がするのかな」
本能に従う、というわけでもないらしい。
「黒井は俺ではダメか」
「多分、そうじゃないかな。心が繋がってしまったら、それを壊したくなくて、体の関係なんてどうでもいい、とかは、ありか?」
御形、俺の質問に答える気はないらしい。肩を抱かれて、キスを幾度も繰り返す。繰り返すたびに、だんだんと深くなる。舌が滑り込んでくると、抗議で目を開けてみた、御形の後ろに月が見えていた。
月の柔らかい光には、柔らかい影ができる。影と光が交わって、絡まったように、このキスが甘い。夜が甘い。
キスを止めると、御形が額を俺の額に当ててきた。
「考えが伝わるといいな。俺、こうしていると凄い幸せ」
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