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困った、月が輝いて見える。輝く月の光が、世界を照らしているように見えた。
「…俺も…幸せ」
今だけ、本音を言わせて。何もかも世界がなくなれば、障害も性別もなければ、俺は多分今、世界中で一番御形が好きだと認める。
「御形のこと、好きだ」
第六章 彼岸に咲く花
何て事を言ってしまった。御形に告白してしまい、御形を突き飛ばして逃げてきてしまった。
「どうした、典史?顔が真っ赤」
言うつもりは一生無かった。布団に潜っても忘れられない。無かったことにして貰えるだろうか。
「典史兄、御形さんにさ…」
「恭輔、黙れ!」
直哉、何となく察してしまったらしい。
「大丈夫、俺、偏見ないから」
俺も自分以外ならば、偏見なんて無いよ。
「とりあえず、現状維持だ」
しかし、現状維持が難しい。御形の姿を見られない。
夕食の後、アルバイトと偽って、蓮の占いの館に来てしまった。母と祖母の手伝いは、しばし休みとなってしまっていた。霊に関わる事件によって俺が殺されかけたのが、母にはショックで、俺には暫く霊には係らないで欲しいのだそうだ。
「黒井、そこに居るならバイトしろ」
占いの館には珍しい、年配の客が来ていた。若い頃に行方不明になった、亭主に会いたいのだそうだ。事情を聴くと、生まれたばかりの赤子と妻を残して、ある日、突然家に戻らなくなったらしい。
水を媒体に過去を見たが、二人は恋愛結婚で本当に幸せだった。子供が生まれて、これからというときに、消えてしまった。『行ってくるね』笑顔が最後の姿だった。失踪する理由なんて無い。
「何か、旦那様の持ち物はありますか?」
直哉の千里眼の方が役に立つのかもしれない、と、物に手を当てたとき、妙な感覚があった。自分の手を見ると、一筋の切り傷があった。物が、見られることを拒否している。
古いメガネケース、中には黒縁の眼鏡が入っていた。
「この眼鏡を修理していて、予備の眼鏡で会社に行きました」
会社って何だ?この眼鏡に映っているものは、全く違う世界だった。
他国と連絡を取るスパイ、そしてスパイを追う者、彼はスパイを追っていた。やっと証拠を掴んだ、仲間に連絡を取り、秘密裡にスパイを拘束する予定。拘束したら拷問にかけ、何を探っていたか、仲間は誰なのか吐かせて殺す。
こんなことは言えない。でも、失踪する理由ならば山ほどある。
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