第1章

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 簡単なメモを蓮に渡すと、蓮も固まってしまっていた。 「この眼鏡、旦那様のもので間違いはありませんね」 「愛用していたものです」  どう説明したものか。 「すいません、お子様の持ち物はありますか?生きていたのならば、ひっそりと会いにきていた可能性もありますので」  子供の持ち物など、持っていないだろうと思っていたら、何かのネックレスを差し出した。 「愛用品です」  ネックレスが子供の愛用品なのだろうか?よく見ると十字架が小さく彫られていた。  杏奈、優しく呼ぶ声が聞こえた。杏奈、お母さんには内緒だよ。父さんは、ウソばかりなんだ。本当はスパイなんだよ。だから、全てウソでできている。でも、これだけは本当で母さんと杏奈を愛しているよ。本当に困ったら、ここに連絡して。 「杏奈さん、お父さんとの連絡方法を知っていましたね」  年配の女性が、ハンカチを取り出し目に当てた。 「はい、娘が先月亡くなりました。その時に、孫を連れてここに行ってと、メモを渡されました。老人ホームと知らない名前が書いてありました」  それで、相談できずに、他人である占いの館に来ていたのか。 「これはフィクションだと思って聞いてください」  眼鏡から見てしまった彼の過去を話した。そして最後に、妻と子供を本当に愛していたことを伝える。 「行くか行かないかは、貴方が決めてください」  長い年月を経て、人は許すことができるのかは分からない。でも、きっと待っている。 「分かりました、ありがとうございます」  過去はただの過去。霊はただの霊。繋いでいるのは生きた人間なのかもしれない。  夜中になりバイクを駐車場に停めていると、御形が上から見ていた。 「おかえり」 「ただいま」  黙って、御形が隣を歩く。何か話をしないと、と、少し焦ったが、俺も黙って歩くことにした。 「黒井、水を媒体に過去を見る。髪を媒体に結界を張る。灰を媒体に霊を実体化。他に何かあるの?何故、直哉は媒体を持たないの?教えて」 「媒体は力を制限する役目と、強める役目、コントロールに使用している。直哉は、他者に働きかける能力は持たないので、自分の中だけで制御可能なんだけど、俺は違うので、媒体を通して力を使い、媒体で制限をコントロールしていると考えていい」  案外コアな質問だった。 「他に共鳴を媒体に言霊を使う。あと、玲二さん蓮、恭輔、直哉が協力。最後に御形と一穂が俺のお守り」
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