第5章

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「そうなんですか。笹倉にこんな格好いい友達がいるなんて……って、あれ?飯田って、飯田 聡のお兄さん?」 「いやぁ、お兄さんではないですけど。親戚みたいなものですかね」 笑って言う隆。だけど目は笑っていない。 「そうなんですかぁ。いやぁ、格好いいですね。よくイケメンって言われるでしょー?」 「うーん、どうなんでしょう」 隆と岸田が一見仲良く会話している間、俺はずっと手に汗を握っていた。 嫌なことがまた鮮明に思い出される。 もう思い出したくはないのに、今日は何回も思い出してしまうじゃないか。 ギュッと目を瞑って早く二人の会話が終わらないかと下を向いていると「あ、彼氏待ってるからそろそろ行くわ」と岸田がやっと目の前から去る音が聞こえた。 ホッとして目を開けると、ちょうど俺に背中を向けていた岸田が振り返った。 「そういえば笹倉。彼女出来た?まあ、あんたを振ったあたしが聞くのもおかしな話よね」 学生の頃は好きだった。少し高めな声。 今は鋭く尖った刃物みたいに、俺の心を引き裂いていく。 何事も無かったように岸田は笑って、俺の前からいなくなった。見えなくなるくらい遠くに行ってほしいのに、いつまでも見えるところに立っているのはまた岸田の俺への意地悪だろうか。 呆然と立ち尽くしていると、「さっきあの人が言ったこと、本当?」と後ろから何ともショックだと言いたげな声が聞こえた。 分かるよ、ショックだよな。でも俺が一番ショックだよ。
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