第1章

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そう、小学校の頃は良かった。 周りのみんなは優しかったし、面白いことを言えばクラスの中心になれること間違いなかったからだ。 だけど、時は残酷だ。 たった一回の自分の行動で、人生が問われる。 成長すればするほど、そんなつまらない人生を歩む人間になってしまった。 クラス一だった強さは、他の奴に腕相撲を簡単に負けるほど弱くなり、後ろから三番目だった身長は時が重なるほど、友達から見下されるものになってしまった。 身体もひょろいままで、いくら沢山飯を食っても逞しくなれず、風邪をひくことも多くなった。 そして、高校になれば知らない奴らが沢山集まる。 見ず知らずの奴らが大勢いる教室で、真っ先に我を出せなかった俺が悪い。発言が減り、大人しい性格へ。 高校を卒業し、大学に行かず社会人になった俺に残ったのは、通知表の『優しい』という言葉だけ。残りの二つの文は、数年で薄れてあっという間に消えてしまった。 人の言葉を簡単に信じることが多く、昔の癖で他人につい良い顔をしてしまう。それを聞いただけで優しい人間像が浮かんでくるだろう? 人に褒められる言葉は大体がその『優しい』だけ。外見は格好いいとも可愛いとも言えない面になってしまった。良く言えば、ユニーク。悪く言えばブサイクである。 そんなこんなで純粋無垢で彼女いない歴=年齢の非モテ人間、俺こと笹倉 憲明(ささくら のりあき)が出来上がったのだ。 昔を思い出せば、数々の名誉が脳裏に過る。いじめっこを成敗してやったし、川辺のゴミ拾いも積極的に行い、表彰された。頭は悪かったけど、運動会では良い成績を取り、リレーのアンカーだったこともある。 あの頃は良かったなぁ。 ぼんやり昔に思いを馳せていると、横から肩をガッと掴まれる。目を閉じていたせいか、掴まれた拍子に右手に持っていたビールジョッキを傾けてしまった。中身が盛大にジョッキから飛び出し、俺の脚を目がけてくる。
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