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好きだった相手が、あんなに意地悪な人だとは知らなかった。
10年にも渡って、俺の心を傷つけるなんて思わなかった。
「ごめん、今日は帰ろう」
気持ちが乗らなくて、自分勝手なことを言ってしまった。
さっきまでの温かい気持ちが嘘みたいに消えていっている。
このままじゃあ、楽しい気分でなんて到底いられない。
「……辛いなら吐き出した方がいいよ」
後ろから俺の背中を優しい言葉をかけながらぽんぽんと叩いてくれる隆。
隆は俺の好きだった相手のことなんて知りたくないはずだ。
「でも、聞きたくないだろ?」
そう聞くと、図星と言いたげに顔は強張るのが分かった。でも、すぐに何かを堪えたみたいな顔をして、ゆっくり口を開いた。
「知りたいって言ったら嘘になるし、正直耳引きちぎってでもそんな話聞きたくないけど……のん……憲明が辛いのは嫌だ。それだったら、俺が辛い方がいいよ」
そう眉を寄せて笑う隆に、泣きそうになる。
スーッと深く息を吸い込み、吐き出した。
「高校の頃、好きだったんだ。俺に何かと話しかけてくれたからさ、馬鹿みたいに好きになっちゃって……向こうも少しは気があるんじゃないかって。そんなわけないのにさ。自分の気持ちに応えて欲しくて、俺は彼女に良かれと思ったことはしてきたつもりだった。まあ、からかわれてただけかもしれないけど、俺は結構本気だったんだ。メールでやり取りしたり、電話したりして……夜の貴重な時間を俺との会話に費やしてくれたから、普通に勘違いしちゃうだろ?」
「まあ、気のある素振りされたらそうだね……。勘違いするね」
隆は素直だ。聞きたくないのに、嫌そうな顔で懸命に聞いてくれる。俺の同調を求める声にも、嫌々ながら頷いてくれた。
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