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雲の流れが早いな…。サワミネさんの言う様に、雨が降ってきそうだ。玄関先で見上げた空は、寒々しくて、春を感じさせない雰囲気は、僕の足取りを重くした。
僕は視線を下げたまま、道端の石ころを蹴っている。上手く前に転がらない。右へ左へ、コトコト乾いた音を立てている 。手持ちの傘で突こうとした時、それは春一番の風に乗ってやって来た。
「ツキ兄~!起きたんかぁ!」
弟の封矢(フウヤ)が、片手に持った鞄を振り回し駆けて来た。
サラサラと辺り一面に広がる風は、足下から巻き上げて、止まる事無く少し先の竹林の中まで入って行く。竹林は波打ちながら風の形を作っていった。
「 ん… ?フウヤ、忘れ物か?」
「うん!傘忘れた!サワミネさんに怒られる!」
急いで走って来たのだろう。封矢の頬は赤くなり、肩は呼吸で上下に揺れている。
「そうか、そうだな、洗濯物も増えて、風邪でも引いたら…。」
「そう!あの苦い茶は嫌だ。」
少年は、両手を前に突き出し、きっぱりと大声で拒絶する。
「じゃあほら、俺の傘持って行け。俺はいいから。早く行かないと、今度は先生に怒られるぞ。」
「お~!ツキ兄~ありがと~ 。」
フウヤは、戻って来た道を急いで戻って行く… 。だが、途中で立ち止まり、石ころを蹴り出した 。
… あいつ馬鹿だなぁ。遅刻するなぁ、きっと 。
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