サディズム

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「いっちょまえに俺を、欺こうってか?」 明が、和也の腹を蹴った。 和也は椅子から転げ落ち、もがき苦しんだ。 「ア"ァァァァ」 苦しい、息ができない、暴れるたびに腕に巻かれたロープが食い込む。 息を整える暇もなく、また椅子に座らされた。 「もう、ハイかイイエで答えなくていいよ」 「お前の知っている情報を全て渡せ」 一番恐れていた状況。情報取引において、その情報をカードに例えることがある。自分が持っているカードをどれだけ強いと思わせるか、それが取引において重要なこと、しかし、いま、和也に手札はない。 和也は必死に考えた。探せ、たとえ役なしのカードでも、取引対象となりうるカードを。 「早く教えろ、もう一発くらいたいか?」 結局、なにも思い浮かばなかった、いや、正確には思い浮かべなかった。痛みというのは、想像以上に和也の意識下に恐怖を与えていた。下手なハッタリがバレたときのリスクが、無意識に脳の回転を弱めていた。 「時間切れだ」 明が手を振り上げた。 その瞬間、和也は明に飛びかかった。 後ろに倒れこんだ明が、和也を引き剥がそうとした瞬間、『ガシャン』と、背後の窓ガラスを割り、大きな石が、飛び込んできた。 「出てこいアキラァ!」 野太い男の声が室内に響いた。 続けて、別の声が呼びかける 「須藤さんがお前のこと始末しろってさ、お前少し調子乗りすぎたよ、今なら小指だけで許してくれるよう、俺から頼んでやる、だから出てこい」 そんな言葉に一切反応せず、明は、投げ込まれた石と、お仕置きに怯える和也を見つめていた。 「俺を助けたのか?」 そう呟くと、ドアの方へと歩きだした。ドアノブに手をかけ、和也に言った。 「今度は俺が助けてやるよ」 「お前に拉致られなきゃ、そもそもこんなことに巻き込まれてねーよ、つり目バカ」などという文句は、今の和也には思いつかなかった。すでに、調教された和也の目に映る明は、さながらヒーローのようだったという。
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