第1章 花が、陽が、そこにあった。

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男へ脚を伸ばして、揉んでもらっている。 毒々しいくらいに煌びやかな世界 重たそうなほど、鮮やかな布が折り重なる着物を着ている花魁。 でも、それが男だって一見しただけでわかる。 ちゃんと男なのに、大輪の花のように綺麗だ。 見惚れて、しまった。 色が入り乱れて、眩暈すらしそうな世界 仕切られたこの小さな世界で 本当にどんな色さえ負かすほどの強い 陽の光りが こっちを見た。 「ガイジンさん?」 声も澄んでいて、水が波立ったような そんな声。 「あ、あぁ」 答えるのに、不恰好なほど声が詰まってしまった。 「遊郭、楽しんでいってくださいな」   ふわりと笑った顔に、ゾクッとした。 笑顔になると、さっきまでの絵画みたいに綺麗なだけだった表情が小さく乱れる。 目尻を控えめに彩る朱が、ただの色じゃなくなって ふわりと香よりも強く甘い香りが立ち込めた気がする。 レイが俺の様子に気がついて、「おい」と小さく声をかけたけれど それすら邪魔なほど、目の前にいる花魁から 陽から、目が離せない。 「なんだよ。夕飯はどうすんだ?」 レイの声がとても遠くに聞こえた。   手が 自然と檻の 歩み寄ることを邪魔する朱色の柵に触れる。 「おーい、ライアン」 この固い朱が邪魔だ。 あの花に触れたいのに これじゃ 全然。 「お客さん。ここにあるのは商品だ。欲しけりゃ、金を払いな」
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