第3章 愛でない花

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立ち上がって すぐそばに来た花からはおしろいのむせ返るような匂いも 毒のような甘い匂いもしない。 ただ ほんのりと、本物の花のような匂いがして 思わず 手を伸ばしそうになる。 「脚、痛いのか?」 「え? え、えぇ……少し、ぶつけたみたいで。日本語、お上手ですね」 さっき、男が揉んでいた脚は今は鮮やかな着物の中に隠れていて、見ることはできない。 「見せて」 太陽は指示されたとおりに脚を 重ね合わさっている布の間から晒してくれた。 膝のあたりから、ふくらはぎを爪先立ちで。 白くて さらりとしていそうな質感。 ロウソクの明かりが空気に揺れると、その半分だけに差し込む影も一緒に揺れて、ふと……。 「っ! あ、あの」 「触れても平気?」 尋ねるよりも早く脚に触れた。 膝をついて、頭を垂れるような体勢。 ふくらはぎに触れたら ピクンと小さくだけど太陽が反応するのが、この距離だと鮮明にわかる。 男なのに、その肌は柔らかくて、 指にふんわりと馴染んだ。 象牙色をしてる肌は滑らかで、とても触り心地がいい。 ふくらはぎからマッサージするように撫で下ろして、かかとの辺りを包み込むように掌で持ち上げると バランスを崩してしまいそうになって太陽の指先が そっと 遠慮がちに肩に触れた。 「綺麗な肌だね。傷、なさそうだよ」 見上げると、この薄明かりの中でもほんのり頬が桜色になったのがわかる。 この季節じゃ、見ることのできない 春にしか咲かない日本の花だ。 「ァ……あの」 戸惑いと喘ぎが混ざっていて、声がとても色っぽい。 聞いているだけで、男の本能を駆り立てる声。 肌だけじゃなく、声も、反応も すごく 艶やかだ。 あの男は使用人みたいなものなんだろうな。 この太陽は「商品」だから 傷なんて肌にひとつだってあってはならない。 だから、触っていた。 そうわかっているけれど、無性に腹が立つ。 「お客さんっ」
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