第1章 花が、陽が、そこにあった。

4/5
1904人が本棚に入れています
本棚に追加
/140ページ
柵の中に手を差し込もうとした時、パッと腕を捕らえられた。 強い力で、ねじ切ろうとするみたいな手に こめかみがミシッと音を立てそうなくらい苛立つ。 男がそこに立っていた。 黒髪の、鋭い目つきに 色が溢れるこの街では逆に浮いてみえる黒に近い紺色の着物。 この店の主、なんだろう。 「どれがいい?」 どれ? そんなの決まっている。 「あの、奥にいる」 「……あれは高けぇよ。あんた、今日、ここに来た通訳だろう? そんな大金持ち合わせてるのか? 一晩ですっからかんになるぞ」 高い。 あぁ、そうだ 彼は花魁なんだっけ。 「いくらだ」 男はニヤリと笑って、耳打ちで値段を告げる。 その金額はたしかに高い。 ただ一晩だけで使うには躊躇うほどの金額だ。 「あぁ、わかった」 「あ?」 「支払えば、あの太陽と?」 すんなりと了承した俺に、眉をひそめて 商売人とは思えないほどあからさまに舌打ちをした。 『おいっ! ライアン!』 主にわからないように、レイが母国語で引きとめようとする。 そんな大金、遊郭で使う気か? 絶対にふっかけられている。 まだ日本に着たばかりで、相場も知らない俺達から金をふんだくるつもりだぞと。 そんなのもちろんわかってるさ。 相場とか、そんなの知らないが この目の前にいる黒髪の男の笑顔が「この金額なら出せないだろう?」と語っている。 『言葉がわからないと思ったか?』 男は流暢に俺達と遜色なく話ができた。 レイも俺もそのことに驚くと、愉快だと唇の端を上げて、黒く鋭い眼差しを細くする。
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!