第1章 花が、陽が、そこにあった。

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『ここはそういうところなんでね。払えなきゃ、帰れ。金がなくちゃ、ここじゃ楽しめねぇよ』 「支払うと言っているだろう」 俺はあえて日本語で、はっきりとそう告げた。 母国語じゃなく、この男の土俵で全然かまわないさ。 「あの太陽を買う」 あそこに咲き誇る大輪の花に触れられるなら 別にかまわない。 「ガイジン、さん?」 さっきから、この朱色の柵がとても邪魔なんだ。 君の顔がちゃんと見たいのに、まともに見れやしない。 君に触れたいのに、この柵のせいで手が届かない。 とても邪魔。 そしてそれを飛び越える代金がそれなら、いくらでも支払おう。 主である男はまた派手に舌打をしてから、店の中へと俺だけを案内する。 『ちょ! おいっ! ライアン! 夕飯は?』 レイが慌てて、ついてこようとしたけれど それは店の人間の手で止められた。 『仕事には行くから安心しろ』 『おーい、そういうことじゃなくて、おーいっ!』 店の中へ一歩踏み入れたら、目がチカチカするほど、本当に色が踊っている。 香も、一歩、中へ進むごとに種類が変わるのか ここに立っているだけで媚薬でも飲まされたような高揚感があった。 「太陽さん、お客さんです」 柵が 邪魔なものがない。 真っ直ぐにその花を見つめたら 媚薬よりも甘い 毒よりも強い色香に 喉がゴクリと鳴った。
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