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見るからに、手ごわそうなオーナーだ。
初老の男は唇の端だけで笑うと、細い目をチラリと身分を証明する紙へと移す。
「ほぉ……」と少しだけ驚いて、細かった目を一瞬だけ見開いた後
喉奥だけで笑った。
「おい、太陽を……」
その一言に、また店がざわつく。
「いいのか?」
初老の男に尋ねたら、チラッとだけ振り返ると、何も言わずにそのまま店の奥へと消えてしまった。
「冗談じゃねぇぞ」
そう黒髪の男は絞り出すように呟いてから、俺の持っていた紙を視線だけで噛み千切ろうとするように睨んでいた。
「どうぞ……」
さっきの黒髪の男でもなく、また新しい店の人間に案内された部屋は想像していたよりも落ち着いていて、普通の部屋だった。
もっと、下の階のように色が乱れているのかと思ったけど。
二部屋あるが何もない。
素っ気無い部屋。
布団がルール無視で現れた客のために慌てて用意されたとわかるくらいに、下の階ほどの色気はまるでない部屋。
「お客さん……」
けれど、その部屋の中央にさっき下の店で見つけた花があるだけで、朱色だけじゃない。
さまざまな色が踊るこの街のどこよりも華やいで見える。
「よう、来なんした」
「え?」
「どうぞ、お座りんす」
「?」
あまり
知らない日本語だ。
首を傾げていると、向こうもイレギュラーな客の対応に戸惑っている。
「申し訳ない。通訳の仕事で日本には来たんだが、君の、太陽の話している日本語はわからない」
「……」
「普通の、そうだな……俺みたいな日本語でも話せるのか?」
キョトンとした顔が、化粧を施した色気と混ざって、言葉では言い表せない魅力になる。
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