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「すまないけど」
「あ、あの、お客さんは、どうして、そんな」
三回分を一気に支払ってまで。
そしてその値段だって、驚くほどの金額だっただろうに。
――ガイジンさん、遊郭でたんまり遊べるのは、金持ちだけだよ。あんたらが、仕事で通訳するような、そりゃ金持ちの偉い方しか遊べない、特別な遊びだ。
そう言っていたのを思い出した。
「おかしな客だった?」
「え、えぇ」
法外な金額を支払って、君を早く手にしたいと思った。
「おかしいことじゃないよ」
「?」
「そのくらい、君が欲しいって思ったんだ」
きっと、色々なルールを無視して、俺はここに無理矢理、強引に押し入っている。
君にしてみたら戸惑うばかりの異国人相手だろうな。
「普通はどうするの?」
「え?」
「ここに辿り着くには三度通わないといけないんだろ?」
「……」
少し驚いた表情
見開いた黒い瞳が、真っ白な肌と真っ赤な唇で異様に際立つ。
その鮮やかで、豪華な着物よりも
もっと
ずっと綺麗な色彩だと思った。
「三度目にようやく、君とこうしてふたりっきりになれるんだろ?」
「……」
「その三度目は何か作法とかあるの?」
とりあえず、部屋の中だからと上に着ていたコートを脱ぐと、太陽がすっと音もなく立ち上がり、滑るように近付いてくれる。
それは、どこか鮮やかな色をした鳥がようやく、近くに歩み寄ってくれたような
そんな高揚感があった。
「いい、です」
「え?」
鳥がさえずるよりも、もっと綺麗な声。
「作法なら、もう、飛び越えているでしょう?」
コートを手に取り、ふわりと笑うと小さな花のように思えた。
あんなに美しい大輪の花に見えたのに。
「こんな客は初めて?」
無言で笑うだけ。
でも、その笑顔は今見せてくれた小さくて可憐な花でも
鮮やかな鳥でもなくて
そんな全部を照らすような
陽、そのものみたいに温かかった。
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