第2章 遊郭

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「すまないけど」 「あ、あの、お客さんは、どうして、そんな」 三回分を一気に支払ってまで。 そしてその値段だって、驚くほどの金額だっただろうに。 ――ガイジンさん、遊郭でたんまり遊べるのは、金持ちだけだよ。あんたらが、仕事で通訳するような、そりゃ金持ちの偉い方しか遊べない、特別な遊びだ。 そう言っていたのを思い出した。 「おかしな客だった?」 「え、えぇ」 法外な金額を支払って、君を早く手にしたいと思った。 「おかしいことじゃないよ」 「?」 「そのくらい、君が欲しいって思ったんだ」 きっと、色々なルールを無視して、俺はここに無理矢理、強引に押し入っている。 君にしてみたら戸惑うばかりの異国人相手だろうな。 「普通はどうするの?」 「え?」 「ここに辿り着くには三度通わないといけないんだろ?」 「……」 少し驚いた表情 見開いた黒い瞳が、真っ白な肌と真っ赤な唇で異様に際立つ。 その鮮やかで、豪華な着物よりも もっと ずっと綺麗な色彩だと思った。 「三度目にようやく、君とこうしてふたりっきりになれるんだろ?」 「……」 「その三度目は何か作法とかあるの?」 とりあえず、部屋の中だからと上に着ていたコートを脱ぐと、太陽がすっと音もなく立ち上がり、滑るように近付いてくれる。 それは、どこか鮮やかな色をした鳥がようやく、近くに歩み寄ってくれたような そんな高揚感があった。 「いい、です」 「え?」 鳥がさえずるよりも、もっと綺麗な声。 「作法なら、もう、飛び越えているでしょう?」 コートを手に取り、ふわりと笑うと小さな花のように思えた。 あんなに美しい大輪の花に見えたのに。 「こんな客は初めて?」 無言で笑うだけ。 でも、その笑顔は今見せてくれた小さくて可憐な花でも 鮮やかな鳥でもなくて そんな全部を照らすような 陽、そのものみたいに温かかった。
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