第一巻

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プロローグ  日の光が生い茂る草と木々に遮られ、薄暗い世界が支配する森の中。『それ』は草をかきわけ、道なき道を二本の足でゆっくりと進んでいた。ギロリと瞳を光らせながら。獰猛な牙を舌なめずりさせながら。  己の前に立ちはだかるものがあれば、全てを噛み砕き。己の糧となるものがあれば、全てを懐に収め。己に従うものがあれば、全てを配下にし。  ある種の傲慢で強欲の塊でありながら、『それ』は驚くほど静かに、森に溶け込んでいた。  その背後には三匹の狼。四本の足で、一糸乱れぬ統率を見せて駆け回る。異変があれば『それ』の妨げにならぬよう、素早く動けるように。それぞれが己の欲を捨て去り、偉大なる主へと仕える。 「いい臭いがするな」  その声と息づかいに、張り詰めた空気が辺りを包む。 「これは、上物だ。お前らはそこで待っていろ」  狼達が一斉に立ち止まり、頭を垂れる。狼達は主について行こうとはしない。主に敗北はないのだから。その出陣をしかと見送り忠実に命令に従うのみである。 「久々だな……ああ、高鳴る! 血を! 肉を! 命の全てを! 俺に献上しろ! くっはははは! どんなやつかは知らんが、精々抗い、もがき、苦しみ。俺様を最高に楽しませてくれよ!」
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