第一巻

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レイナとカリスの家は街から徒歩三十分ほど離れた森の中にある。人里離れた場所ではあったが、レイナは今まで不満を抱いたことはなかった。カリスと二人で毎日のんびりと過ごすことが好きだった。それでも、街はレイナにとって刺激的なものであった。人が多い。見たことのない食材がたくさんある。おもちゃもある。やはり、楽しいものは楽しいのだ。    この辺りは国内でも比較的治安が良い地域であるとされている。カリスが幼いレイナに一人で街に買い物に出したのも、そういう理由からだった。 「もうすぐ。もうすぐ着くー。街に着くのーふんふふー」 「おや、カリスさんのところの」  もう数分歩けば街の入り口に至るというところで、レイナは一人のふくよかな婦人に話しかけられた。カリスの知り合いのようで、レイナは何度か街で顔を合わせたことがあった。優しくいつもお菓子をくれるので、レイナはこの婦人のことが好きだった。 「あ、おばさん! こんにちは。えへへ。今日はねー。一人で! お使いなのー」 「そう……まだこんなに小さいのに偉いわねえ」
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