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―――あまり乗り心地の良い車ではないな、と思った。
商業用のバンの二列目の座席から眺める景色はぶれにぶれ、落ち着いて見られるようなものではない。
先ほどビル群を抜け、田舎道に入った。
前方に見えるのは、何十キロも離れたここからでも見える、巨大な岩の塔。
いや、塔のように細高い岩山だ。
「父さん、次は右ね」
「あいよ」
「あっ、ごめんなさい! やっぱり左!」
「あいよ」
次に私が視界に入れるのは、黒いミリタリーコートを纏った中年のドライバー。
そして助手席で地図をあたふたと地図を眺める、青いTシャツを着た幼い子供。
私はその子が得意ではない。
何をするにも落ち着きがないので、タカシの計画を妨げる邪魔な存在でしかないとすら思っている。
「ねぇ、サキチ。ナビなら私がするわ。私に地図を貸してくれない?」
「ううん、大丈夫です。僕は父さんを手伝いたいんです」
「はぁ……BJさん、お父様として何か言ってあげてくださいな」
「誰がナビをしようと変わらないさ。道はおおよそ俺の頭に入ってるし、息子にできるだけ手伝ってもらいたいのでね」
この親子は本当に似ていない。
ハンドルを握る父のBJはやり手の大学教授だったと聞く。
それに対して……このポンコツ息子。
行動の不安定さはもちろん、安定しているのは小生意気に整った言葉遣いだけだ。
唯一この親子の共通点を挙げるとすれば、意外にも強情なところだろうか。
この親バカめ。
やがて額を押さえる私の肩を叩く、細くて華奢な指。
「まぁまぁユウコさん。着きさえすればナビなんてどうでもええやん。ストイックになりすぎやで」
「……そうね。分かったわマスクさん、反省する」
後部座席の隣に座るのは、薄汚れたツナギ、そして顔を隠す緑色の仮面が特徴的な女性、マスク。
顔もそうだが、この女の素性には分からない点の方が多い。
ただし歳は近いらしく、性格もおおらかなので、この面々ではタカシに次ぐ私の理解者でもある。
「そういえばユウコさん、タカシさんは?」
「タカシは別の場所でまた計画を進めてるわ。この場のリーダーは私ってことになってる」
「そうやんね。頼むでユウコさん! 新しい世の中のために! あっはははは!」
彼女の仮面の下の笑顔は、きっと素晴らしく輝くものなのだろう。
しかし緑色の仮面が形どっているのは、ピエロ、しかも泣いているピエロだ。
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