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―――スマートフォン。
俺にとってその小さな個体は、親父と俺とを繋ぐ唯一の架け橋だった。
あの日のフェイスタイムは今も脳裏にこびりついている。
しかし、俺の計画を狂わせるにはまだ至らなかった。
「とっ、父ちゃん!? 何してたんだよ! 三日も連絡くれないで……どこにいるの?」
《……あぁ……》
5インチにも満たない小さな画面に映っていたのは、懐中電灯に照らされる疲れきった親父の顔。
そしてボロボロになった探査服と、暗闇に包まれた背景だ。
現在時刻は午後11時、それから察するに、親父は屋外にいる。
《……タカシ、誕生日おめでとう。幼稚園は楽しいか?》
「どこにいるんだって!? 探査隊の支部にも定期連絡してないじゃないかよ! みんな父ちゃんが死んだと思ってる!」
《……重々分かってるよ》
身体の小さな俺しかいない広い部屋に、親父の神妙な声音が響いた。
壁一面に並べられた書籍は、全て親父が書いたレポートだ。
「ヒトとオニ」……既に何度も読んでいた小難しいあの本も、今はこのシチュエーションを構成する小道具に過ぎない。
俺は食い入るようにしてスマートフォンを見ていた。
つい昨日、「親父は死んだのだ」と探査隊の連中に嘘をつかれたからだ。
《父ちゃんはまだヒトの住処にいる。部下は全員殺された》
「まさか、“桃太郎”に?」
《……はははっ、情けないよな》
自嘲するように笑う親父。
口調から察するに、暗に俺の言葉を肯定しているように聞こえた。
《定期連絡が丸二日経っても途絶えていた場合、探査隊は全員死亡したとみなされる。過去にも探査隊がヒトに壊滅させられた記録があるからだ。分かるな、タカシ》
「……ってことは、父ちゃんは……」
《そうだ。死んだことになってるんだよ》
それが今まで目に入らなかったのは、俺の脳が理解を拒んでいたからなのかもしれない。
見えた、親父の探査服に付着する、赤黒いシミ。
大きくて、しかも多い。
それはヒトではなく、オニの血。
俺や親父と同じ、オニの血なのだ。
《だが、タカシ。父ちゃんはすごいことを成し遂げたんだ》
「何を?」
《とうとう辿り着いたんだ、“桃の郷”に》
「なんだって!!??」
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