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誰も口を開かない。
瞼を伏せたまま一文字に口端を引くINU。
ギュッと腕に力を込めるGI。
空気が張り詰めたのを感じて冷や汗が背中を伝う。
ごくんと喉を鳴らす音さえ静寂な部屋に響いた気がした。
「…いい。分かったわ。自分で探す」
GIの腕を押しのけ鉛のように重い身体を動かした。
立ち上がった瞬間、目眩いを感じながらも出口へ足を向ける。
フラフラとおぼつかない足取りで歩く背後から二人が名を呼ぶ声が聞こえた。
部屋を出て耳を澄ますと微かに聞こえる女の声。
その声を頼りに足先を向けた。
壁に寄り掛かりながら懸命に歩く。
一体どれくらい私は寝ていたのだろう。
自分の身体が思うように動かない。
足も産まれたばかりの鹿のようにもつれて転倒しそうになる。
それでも必死に足を進めると、女の声は段々鮮明になってきた。
「ああ…、ちょ、…もう、やめ…」
ハァ、ハァと荒い吐息と共に漏れる声は紛れも無くあの百田桃子。
でもどうして?
INUもGIもさっきの部屋に居たのに…
百田桃子にそんな声を出させる人物は…
一体誰なの?
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