0人が本棚に入れています
本棚に追加
セカイ系とは、「きみとぼく」の小世界と大状況を直結させたものであり、かつ、エンターテインメントのお約束的なストーリー展開を拒絶して主人公の男の子が何もしない、できないという、反―物語でもあった。
だからその反―物語的な側面を加速させた、谷川流の『涼宮ハルヒの憂鬱』や田中ロミオ『CROSS†CHANNEL』や『最果てのイマ』のように、ジャンルのお約束やその作品自体に対してメタ的な自己言及や仕掛けを施したり、長々と思弁を弄することも、よく見受けられた(谷川は神林と竹本からの影響が自明だし、田中は神林や筒井康隆からの影響がみてとれるメタ志向の作家だった)。
もっとも、セカイ系の代表とされる高橋しん『最終兵器彼女』、秋山瑞人『イリヤの空、UFOの夏』、新海誠『ほしのこえ』はいずれもメタな意匠はいっさいなく、「きみとぼく」の悲恋をある意味ではベタにやりきってヒットした作品ではあるけれど。
たとえば、三度もアニメ化されているモンスターヒットしたライトノベル作品『フルメタル・パニック!』の賀東招二は、八〇年代の冒険小説や『装甲騎兵ボトムズ』の高橋良輔から影響を受けている。
たとえば『Fate/stay night』や『空の境界』の奈須きのこは小説誌「ファウスト」のなかで「新伝綺」ムーブメントの旗出として紹介された。
彼は八七年に発表された綾辻行人『十角館の殺人』以降に勃興した新本格ミステリと、菊地秀行や夢枕獏、栗本薫に代表される八〇年代の伝奇バイオレンスからの影響を公言している。
つまり新本格と伝奇をかけあわせたものが新伝綺だったわけだ。
八〇年代を席巻した伝奇バイオレンスの影響は、すさまじいものがある。
二〇〇〇年代のサブカルチャーを牽引した団塊ジュニアよりも下の世代からは見えにくくなっているけれど(理由はかんたんだ。手軽にリファーできる、まとまった菊地秀行論や夢枕獏論が、どういうわけか存在しないからだ)。
菊地秀行なら『魔法少女まどか☆マギカ』の虚淵玄はもちろんのこと(彼が一八禁のエロゲーのシナリオライターとしてデビューすることに抵抗がなかったのは、菊地秀行がエロスとバイオレンスの世界を描いていたからだった)、一般的にはセカイ系作品に近しい資質をもつとみなされている『ハルヒ』の谷川流も虜にした。
最初のコメントを投稿しよう!