第1章

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 夢枕獏なら『マルドゥック・スクランブル』の冲方丁や、『イリヤの空、UFOの夏』の秋山瑞人――彼の『猫の地球儀』は夢枕の『餓狼伝』を彼なりにやろうとしたものだった――も影響を受けた作家だった。  ただし「資質」を受けついだ、とカギカッコでくくって注意をうながしているのは、伝奇の例でわかるように、実際には影響関係は錯綜しているからだ。  つまり、押井や神林のファンが必ずセカイ系作家になり、菊地秀行や栗本薫を読んでいた人間が二〇〇〇年代に自動的に伝奇作家になったわけではない。  同じ八〇年代という時代に青春を謳歌したのだから、神林長平を読む人間はサンライズのリアルロボットアニメも観ていただろうし、北方謙三をはじめとする冒険小説のファンの本棚にだって、いちおうは村上春樹の本が数冊あるなんてこともざらだっただろう。  もちろん、好き嫌いの濃淡はあったはずだ。  それに、のちに開花させる才能がこのマップでいう左右どちらかに振れているかはひとそれぞれだったのだろう。  たとえば秋山瑞人はセカイ系の代表格とされているけれど、伝奇からも、ウィリアム・ギブスンやブルース・スターリングに代表されるサイバーパンクからも影響を受けている。  デビュー作の『E.G.コンバット』はサイバーパンクだったし、古橋秀之との共作『龍盤七朝』は武侠ものだった。いちばん売れた作品が『イリヤの空、UFOの夏』だったから彼はセカイ系作家だと思われているだけで、実際にはこのマップに記したたいがいのものに触れているはずだ。  では虚淵玄はどうだろうか?  彼はあとがきやインタビューで元ネタになった作品を律儀に挙げているから、影響関係は見やすい。
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