ハ雲立つ出雲の国の物語

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眠れないまま気が付いたら午前2時になっていた。 とにかく眠らなければとあせって、アモバンを二錠飲んでしまったが、 飲んでから後悔した。経験上、アモバンはよく効く。 このままでは朝7時の出発に絶対に目が覚めない。  焦って考えてすぐに外出着に着替え、靴下まで履くとやっと安心して眠りについたのである。 朝はやはり目が覚めなかった。  父と兄に支えられて車に乗ったのはうっすらと覚えているけれど、車の揺れが心地よくてさらに深く寝入ってしまったのだった。 あれから何時間位経ったのだろう。  家族が何度も かおり、かおり、と呼びかけている。 もしかしたら、六重に着いたのだろうか? 母が私を抱き起こして「かおりが一番会いたがっている人が隣にいるよ。」と言う。  その人とは千晶しかいない。 ああ、早く起きねば、早く目を開けて千晶に会いたい。 そう思って頭の中でも、心の中でも必死にもがいてもがいたら、やっと少しずつ目が開いて来た。   その時「寝ぼすけのかおり、目が覚めたのね。」 そう言いながら千晶が優しく私を抱いて来た。 「千晶?本当に千晶なの?」 まだぼんやりしている私に、彼女は何度も抱きついて頬と頬をくっつけて来る。 その度に彼女のポニーテールの毛先が頬や首すじを撫でる。  ああ懐かしい。 中学生の頃いつもこうして、じゃれあっていた。 やはりこの感触も匂いも千晶だ。7年近くも会っていないのに、心の中はあの頃にもどって行く。 「ここは六重?」 「そうここは六重よ。」 「千晶だよね?」 「うん、千晶よ。」 「会いたかった、ずっと会いたかったの。」 「私もね誰よりもかおりに一番会いたくて、だから今の気持何て言えばいいのか、でもとにかく嬉しい。」 そんな事を何度もお互言いあってから  「どう動けそう?」 と彼女が聞く。 「うん、もう大丈夫。」 「じゃあ外に出て六重の空気を胸いっぱいに吹ってみて。」 家族はもう外に立っている。 彼女に両手を支えられて、やっと車から降りて六重への一歩を踏み出したのだが、この一歩がこれからの私の未来を大きく変える事になるとは、その時にはまるで知るよしもなかった。  降り立ったのは、六重の神社の広場だった。  春の暖かく穏やかな風が吹いていて、あまりの気持良さに久し振りに思い切り深呼吸をする。 足元には名前も知らない小さな野花や、タンポポが咲いている。
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