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僕が生まれたのは海がよく見える港町。
朝になれば、静かに波の音がさざめく。
僕はその音が今でも好きだ。
今日も朝早く起き、波の音を聞きに海岸に佇んでいた。
「悠。相変わらず早起きね」
優しく、透き通った声が僕を呼ぶ。
「彩。お互い様だろそれは」
僕はふっと笑いながら、彼女に答えた。
彩は僕の幼馴染だ。
家もすぐ隣で、昔から一番仲がいいのは彼女だった。
先月、同じ高校に入学もした。
彼女は余裕があったみたいだけど、僕は最後までいっぱい勉強して、なんとか合格したくらいだから、学力ではどうも及ばない。
でも同じ高校に行くことが出来て、僕は素直に嬉しかった。
「波の音、よく飽きずに聞きに来るわね」
彼女はいつもそうやって僕をからかう。
どうやら僕は、マイペースな人間らしい。
団体行動とかがどうも苦手なのも、この性格のせいなのだろうか。
「波の音を聞くと、凄く落ち着くんだ。色々悩むことも増えたけど、少しだけ忘れることができるというか」
声変わりを終えたばかりの声で、僕は答えた。
「悩むこと?何に悩んでるの?」
その質問に、僕は戸惑った。
「それは…」
僕がそう呟いた矢先、遠くから僕らを呼ぶ声が聞こえた。
「おーい!そろそろご飯の用意できるよー!」
甲高い声で僕を呼ぶ母。
僕は彩に「そろそろ行こうか」と言い、家へと歩きだす。
「待ってよ」彼女は小走りで僕を追いかけた。
ふと、後ろを振り返る。
そこには海を強く照り付け始めた太陽があった。
そして、僕の後ろをついてくる、彩をより光輝に魅せる光。
その光を、僕は複雑な心境で睨んでいた。
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