第一章

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 誰かに尾行さ(つけら)れている。  俺、高村秀(たかむらしゅう)は入学二週目にして確信した。  これまでにもなんとなく視線を感じることは、あるにはあったが……  最初のうちは『一般入試組』に対して向けられる、不特定多数からの視線だろうと思っていた。  俺がこの春から通うことになった私立青凰学院は、県内では名の知れた中高一貫の進学校だ。  高等部の生徒の多くは、簡単な面接試験を経てそのまま中等部から進学してきている。  一方で学院には一般入試枠も設けられていて、外部の中学校からの受験生の受け入れも行っている。  その一般入試を突破して入学してきたのが一般入試組というわけで、かくいう俺もその中の一人だ。  もちろん中高一貫という性質上、一般入試組の方が圧倒的に少数派である。  比率にして一割弱。  なので、中等部から進学してきた生徒たちにすれば、俺たちは――悪くいえば――よそ者で、そういう意味では注目を集める存在といえるのかもしれない。  しかし、その手の視線は日を追うごとに薄れていくものだろう?  実際は逆で、だんだん強くなってきてる気がするんだな、これが。  視線の主も不特定多数ではなく、俺のカンが正しければ、おそらく一人。  入学して三日目あたりから、ひょっとして誰かに見られているのかもと思い始めていたんだが、これまでは確信が持てずにいた。  だが今日、疑念は確信に変わった。  授業が終わり、教室のある二階から一階まで降りてきたところで忘れ物に気づき、教室に戻ろうと振り返ったその時。  小柄な人影が、慌てて引き返して階段を上っていくのが見えた。  明らかに俺が振り返ったことに反応して、逃げ出したのだ。 「お――」  おいと叫んで追いかけようとして、やめた。  教室にはまだ残っている生徒もいるだろうし、その中から尾行者一人を特定するのは難しいだろうと思ったからだ。  手近な生徒をつかまえて『誰かこっちに走ってこなかったか!?』なんて、ドラマの中の刑事みたいなセリフを吐くのも気恥ずかしい。  あたりは薄暗くなり始めていたし後ろ姿だけだったので、人影の詳細まで見てとることはできなかった。  ただ、走り去るその小柄なシルエットから女子生徒であることだけはわかった。
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