第一章

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 ……この学校に、スカートをはいて放課後の校舎を徘徊することが趣味の男子生徒がいなければ、の話だが。  女子生徒に尾行されている――なんて言うと魅惑的なフレーズのように感じる奴もいるかもしれないが、尾行される理由に心当たりのない俺にとっては不安をかきたてる要素にしかならない。  あるいは俺が、入学当初からクラスの女子の間で話題になるほどの容姿の持ち主だったり、中学生の時から活躍していたスポーツチームの有力選手だったりすれば、まだ話はわかる。  一目惚れした女子とかどこかの部のマネージャーだとかが、告白や部活の勧誘なんかの理由で密かにその機会をうかがっているのかも、と考えることもできただろう。  ただ俺の容姿や運動神経は上中下で言えば中、ABCで言えばB、甲乙丙丁で言えば乙と丙の間を行ったり来たり、というのが実情だ。  ……自分で言ってて悲しくなってきたぞ。  体型こそ標準だと思うが、特に背が高いわけでも足が長いわけでもない。  顔は、目だけはアイドルグループの誰それに似てるとか、口元だけは有名バンドのボーカルにそっくりとか言われたことはあるが、顔全体についての感想を言われたことはない。  ……地味に傷つくよな、そういうのって。  運動に関しては、体育の授業以外でスポーツに取り組んだという経験もないし、そもそも運動部に所属してすらいなかったからな。  視線を感じるのは学校にいる間だけ。しかも授業中にも感じることがある。  学校が終わって校門を出た後や学校のない日曜日には視線を感じることがないので、尾行者の正体はこの学校の生徒――さらに言えば、俺の所属する一年C組の中の誰か、ということで間違いなさそうなんだが……。  残念ながら俺にあてがわれた席は最前列――教卓の斜め前という、授業中に居眠りをするには最悪のポジションだ。  つまり授業中ともなれば、クラスのほぼ全員の視線を背中に受けることになるので、そんな中から俺への視線の主を突き止めることなど、まず不可能だ。  授業中に振り向いて確かめるわけにもいかないし。  告白とかの好意的な理由でないとすれば、その逆か?  この一週間あまりで、早くも誰かの反感を買うような行動をしてしまっていたとか? 「……そんな覚えはないんだがなぁ……」
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