第一章

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 入学初日。  まあ、入学式は回想から除外してもいいだろう。  校長やら保護者会の代表やらのありがたいお言葉を聞き流してるうちに終わってたし、俺が新入生代表として壇上で演説をぶっこいたわけでもないしな。  入学式が終わって教室に入ると、まず最初に待ち受けていたイベントが自己紹介だった。  中高一貫で中等部から生徒の入れ替わりがほとんどないとはいえ、学校中のみんながみんな顔見知り同士ってわけでもないだろうし、俺たちのような一般入試組もいるから、この自己紹介って奴はイベントとしては順当だろう。  出席番号の先頭から一人ずつ教卓の前に出て、出身校とともに名前を名乗っていく。  もっとも出身校に関しては、ほぼ全員が――多少、表現の違いはあるにせよ――『中等部からの進学です』だったがな。  俺の数えた限りでは、このクラスの一般入試組は俺以外に四、いや五人だったかな?  とにかくそれだけしかいなかった。  担任教師が、趣味でも将来の夢でも何でもいいから一分間は喋れという注文をつけたもんだから、みな順番に家族構成だのペットの自慢だのを交えた自分語りを展開していった。  担任はその間チラチラと自分の腕時計に目をやっていたので、正確に一分間を計っていたのだろう。  実際、明らかに短いと思われる生徒には『まだ二〇秒残ってるぞ』などと声をかけたりしていたから、相当に几帳面な性格のようだ。 「では、次。高村」  俺の名が呼ばれた。  名前と、自宅からすぐそばの公立中学出身であること、学校までの距離が中学の時より伸びたので朝起きる時間が早くなって辛いこと、まさか青凰に合格するとは思ってなかったので自分でもびっくりしてます的なことまでは、事前に用意しておいた内容だったのでスラスラと言うことができた。  中学校より遠くなったとは言っても、俺の自宅と青凰学院とは電車で二駅しか離れていない。  歩きを含めても、三十分もあればたどり着ける。  ただし三十分というのは、あくまでちょうどいいタイミングで電車に乗れれば、の話だ。  俺の住んでいる――つまりは青凰学院のある――御原(みはら)市は、決してド田舎というわけではないが、だからといって都会でもない。  市の名を冠した御原駅には新幹線も停まるし、その駅の周りにはそれなりに買い物をしたり遊んだりできる施設もあるが、どうにも寂れている印象だ。
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