第一章

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 市の中心部でさえそんななので、中心から少し外れた青凰学院周辺は、さらに田舎度がアップしている。  周辺の風景に占める緑色の割合の何と多いことか。  そこを走る電車も、朝の通勤通学の時間帯であっても一時間に二、三本のみという実にのんびりしたものだ。  なので一本乗り損ねてしまうと、次の電車まで二、三〇分は待つ羽目になる。  ちょうどいいタイミングで乗れれば、と言ったのはこういうわけだ。  去年、都会の大学に進学した従姉から、数分おきに電車が来ると聞かされた時はにわかには信じられなかった。  一応、青凰よりも自宅に近いところに一つ公立高校があるが、そこまで自転車で通うのと青凰まで電車で通うのとでは、時間にして一〇分ほどしか違わない。  中学の時も自転車通学だったので、電車通学への憧れってのもちょっとはあったと思う。  ただ当時の担任教師らからは、今の学力では難しいだろうと言われ続けていた。  俺自身も記念受験のつもりでいたら、運よく合格できてしまったというわけだ。  あまり取り柄のない俺だが、昔から運の良さだけには自信がある。  ……実力ではなく運の良さで合格したと自分で言ってしまっているあたりがどうにも悲しいが、そこには触れないでくれ。  で、自己紹介の続きだが、俺に与えられた一分まで、まだゆうに三〇秒ほど残っている。 「えーと……」  とりあえず趣味の話でもしておこうかと考えたが、正直なところ趣味らしい趣味が俺にはない。  もちろん漫画を見たりゲームをすることもあるし、音楽を聴いたりもする。  ただ、何というか……広く浅くといった感じで、これは! と言えるものがないんだな。  まあ、しょっぱなの自己紹介で『趣味はありません』なんて言うのもどうかと思ったので、無難にもほどがある音楽鑑賞という単語をあまり豊かでないボキャブラリーの中からひねり出し、遠慮がちにたまに映画を見たりもしますと付け足しておいた。  担任からOKの声がかからないところからすると、それでもまだ一分には達してないらしい。  仕方ないので、俺はとっさに思いついた、現在絶賛放映中のアニメキャラのセリフをアレンジした言葉で、自己紹介を締めくくった。  そこでようやく、担任の口から終了の合図が発せられた。
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