第1章

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意外な結末と書いたが、それは玲子の想定内の出来事でもあった。 そのことが玲子には引っかかっていた。想定内であるはずがないのだ。 想定できない別の力が、玲子に「想定内」だと思い込ませようとしている。 玲子はそんな風に感じていた。 「オバラー。」 玲子は声を上げた。 暫くして、中年の男が応接室に入ってきた。 中肉中背。 オールバックになであげられた髪。 堅苦しく首元まで締め付けられたネクタイ。 神経質そうな表情とミスマッチなどんぐり眼がメガネの奥で光っている。 中津川家の執事のオバラである。 「なんでございましょうか?」 オバラは探るようにオドオドと玲子に尋ねる。 一種の反射神経のようなものだ。 オバラは中津川家の執事であり、当主の礼央那がいない間は、無鉄砲で奔放な玲子の監視役を担っている。しかし、オバラにとって玲子はまさに天敵といってもよく、監視役どころか、玲子の尻拭いに奔走する毎日なのである。 玲子のオバラを呼ぶ声のトーンだけで、危機を察知できるほどオバラの玲子に対する反応は鋭敏なのである。 今の玲子の声のトーンは、差し迫った危険性はないが、少しでも対応を誤るととんだトバッチリを受ける可能性もあるパターンの声だ。 慎重な対応が必要である。 オバラは深呼吸をして、玲子の言葉を待つ。 そんなオバラの動揺を知ってか知らずか、玲子はオバラに背を向けたまま、応接間のソファから、まるでホテルのロビーのような大きな窓ガラスの外に広がる日本庭園を眺めている。 「あのぅ…お嬢様。」 オバラは恐る恐るもう一度声をかけた。 「ん?」と玲子は首をオバラの方に向けた。 「何?」 「いや、その…お嬢様がお呼びになったので…。」 どうやら玲子は無意識のうちにオバラを呼んだらしい。 「御用がなければ…。」 厄介なことを押しつけられる前に退散するのが一番だ。 オバラはクルリと方向転換をして部屋を出ようとした。 「ちょっと待って。」 逃げようとするオバラの背に玲子の声が。 びくり。 オバラは玲子に背を向けたまま身体を硬直させた。 「な、なんで、ございましょう?」 「紅茶を淹れて頂戴。」 「か、かしこまりました。」 オバラは安堵の溜息をついた。
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