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「これは?」
カップをソーサーに戻して、玲子はソーサーの隣の銀の皿に盛られているものに目をとめた。
「お茶うけにと思いまして。」
オバラは満を持して答える。今日の秘密兵器の登場だ。
「ラスクね。」
玲子は興味無さげに言った。お茶うけとしては少し重たい気がする。
「流氷ラスクでございます。」
オバラはしたり顔で言う。
「網走のダニエルドゥノウさんから昨日届いたものでございます。」
「ふーん。」
玲子は気乗りしないように頷いた。
「ここが違うのでございます。」
オバラは皿の上のラスクを一つとって二つに割ってみせた。
ラスクは奇麗に二つに割れパン屑もでなかった。
「このラスクは、通常のラスクと違って低温で三度焼いているのでございます。その結果、乾燥しすぎずにパン本来の食感や味わいも残っているので、このようにコーティングしたチョコの部分はしっとりと、パンの部分はサクッと割れるのです。」
玲子はオバラの講釈を聞くと皿の上の流氷ラスクを取っておもむろに口に運んだ。
口に含むとコーティングされたホワイトチョコが優しく口で溶け、パンの部分がほどよい抵抗感で歯切れていく。
パンの小麦の味が口に広がる。
甘いのだが、上品な甘さで食感の割りには軽い。
合わせてロイヤルミルクティーを口に含む。
ロイヤルミルクティーの濃厚な味わいとホワイトチョコのほのかな苦味と甘さが、味覚の構造をさらに複雑にしてくれる。
またロイヤルミルクティーがパンに染み込み、小麦が持つ自然の甘さを引き立たせる。
確かにオバラの淹れるロイヤルミルクティーとの相性は抜群だ。
「チョコレートはベルギー産ね。」
玲子は言った。
「美味しいわ。」
「ありがとうございます!」
久しぶりに玲子に素直に褒められてオバラは喜んだ。
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