第1章

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『百年の孤独』エミュレータを求めて  わたしが興味があるのは、『百年の孤独』という作品が、読んだ者にたいして、どうにかこんなものを書いてみたい、とおもわせるものであること、だ。  そうおもった人間は、なにをかんがえるだろうか。 『百年の孤独』のような小説をいかにしてうみだすか。  どんなルールにしたがってことばをつみあげていけば、『百年の孤独』のような物語になるのか。  どんな構成がなされ、どんな力学がはたらいているのか。  そういうことだ。  ここでかんがえてみたいのは『百年の孤独』をエミュレーションする方法である。  それがわかれば、これから『百年の孤独』の子孫たちがうまれてきたとき(もっとも、その場所がサブカルなのかどこなのかは、知らない)、一族の者なのかどうか、判別することはたやすいはずだ。  いや、判別するために使う/使われることにも興味はない。  本稿は作品分析にもとづくツールの開発と提供のみを目的とし、結論めいたまとめはさいごまで用意されることはない。 『百年の孤独』において、舞台である土地マコンドにやってくるジプシーが、主役をつとめるブエンディア家の人間たちのまえにならべる品々のように、ただ羅列され、売られ、一部は使われ、捨てられていくだけだ。  いわば本稿ではガルシア・マルケスを、マコンドをきりひらいた最初の家長であるホセ・アルカディオ・ブエンディアとして扱うのではなく、ブエンディア家の運命を記述した羊皮紙をのこしたメルキアデスとしてあつかう。  わたしが知りたいのはブエンディア家の未来ではなく、メルキアデスが予言を書いたその方法論だ。
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