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私はその一人で来たお客さんの様子を探ろうと、亀が甲羅からめいいっぱい顔を出すように、背伸びをしながら右へ左へと動く。
するとかろうじて見えたテーブルの上には、食べ物はおろか飲み物すらない状況だった。
「まだオーダー取ってなかったの!?
急いで取ってくる!」
そう言って私が踵を返した瞬間…
「ダ、ダメだ!行くな!!」
トモさんのその一言で私の足が止まる。
飲食店に来たって言うのにオーダーを取りに行っちゃいけないなんて…
一体どーゆーこと?
「……行かなくて…いいの?」
「あ、あぁ…俺が行くからいーよ!」
「でも……トモさん、料理中でしょ?」
私がそう声を掛けると、トモさんは火にかけていたフライパンに視線を落とした。
自分が料理中だって、すっかり忘れていたみたい。
トモさんはコンロの火を消すと、人差し指をクイックイッと動かして私を呼んだ。
私が首を傾げながらトモさんのいる厨房の中へ入るとトモさんが内緒話をする仕草をしたので、私はそっと耳を傾けた。
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