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「貢ぎ物様。意識が戻られましたか」
見えない
目が霞んで、全てがボンヤリと暗くて、声の主の姿も捉えられない
虚ろな視線を彷徨わせる夏樹を見て、夏樹を取り囲む男たちの顔が、どんどん青ざめていく
「貢ぎ物様・・・・・・目が、見えておられぬのですか」
手も、動かない
顔が痛くて、手で触ろうと思ったのに、肩から下が鉛のように重い
「何て事だ。お前があの駄犬共を放っていたせいだぞ」
罵倒し、広間を出て行こうとした男が、犬へと変貌していく
「恐ろしい。我らも犬に変えられてしまうのか?」
彼らが頼れるのは夏樹しか居ない
桂木になった男の怒りを静めることが出来るのは、貢ぎ物の夏樹しか居ないのだ
だが、今の夏樹は動けない
顔、膝、肩が腫れ上がり、擦り切れている
手首だけでなく、身体全体に痣が出来て、無惨な姿でピクリともしない
「これが神の意向かも知れん。我らは、貢ぎ物様をぞんざいに扱い過ぎたのだ」
「たかが貢ぎ物だろう!抱かれる為に生まれた者をウオーン、ワン」
「また、犬になったぞ」
広間に諦めの空気が漂う
神に仕える神官が、神に見放されてしまった
「今年の貢ぎ物様は、桂木様に気に入られ、幸せになる筈だったのに、壊してしまった」
「貢ぎ物様を家に帰そう。そうすれば」
「ヒッ!?これは、桂木様の仕業か?」
夏樹の手に触れた男が、消えて居なくなった
「桂木様が、高橋家の者に決まった瞬間、我らの命運が尽きたのだ」
「狼狽えるな!桂木様が来られたぞ。残った我らで、丁重に桂木様をお迎えするしかないのだ」
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