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「バイバイ夏樹君。また明日ね」
「じゃあね鈴木さん。気を付けて」
日直当番だった彼女と、小学校の正門前で手を振って別れ
風の冷たさに体をブルッと震わせた
「寒い。冬樹の言うこと聞いて、手袋持ってくれば良かった」
小さな手に「ハア」息をかけて、こすり合わせる
早く家に帰って温まろう
早足で歩く夏樹の目に家が見えてきた所で、聞きたくない会話が聞こえてきた
「高橋さん家の春樹君。また背が伸びて格好良くなったと思わない?」
「思うわ。冬樹君も、小学生とは思えないのよね。運動神経も良いし、勉強も春樹君と同じで出来るんですって」
「あんな息子たちが居て羨ましいわ」
「ねえ知ってる?次男の夏樹君は奥さんの浮気相手との子らしいわよ」
「やっぱり。一人だけ小さくてパッとしないものね。もう6年生なのに、ウチの息子の方が大きいのよ」
くるりと家に背を向け、歩いてきた道を戻って行く
通り過ぎていた公園の大きな木の影に座って、耐えていた涙がポロポロ頬を伝って流れ落ちていく
「どうして僕だけ小さいの?どうして僕だけ誰にも似てないの?ぐすっ、ひっく」
平凡な子。浮気相手の子。貰われた子
そんな噂話を聞く度に、一人で公園の片隅に座って泣いてから帰っている
家で泣くと、家族が心配するから
「顔を洗って帰らないと」
公園の冷たい水で顔を洗い、トボトボと俯いて家へと向かい歩き始めた
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