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リチャード・バーブルックとアンディ・キャメロンは、アメリカ西海岸のハイテク技術者を中心とする「仮想階級」(アーサー・クローカー)が置かれたこのような社会経済的条件の反映が、市場経済の規範とヒッピー的職人[アルチザン]気質の奇妙な混合たちとしての「カリフォルニア・イデオロギー」を生んだと分析している。
バーブルック/キャメロンによれば、サンフランシスコの文化的ボヘミアニズムとシリコンヴァレーのハイテク産業の混合を母胎として、あらたな情報技術が何らかの社会的解放をもたらしてくれるという楽観主義的な未来像とテクノロジー決定論に基づいたこのイデオロギーは、たとえばハワード・ラインゴールドの「仮想共同体」といった発想のように、一九六〇年代のカリフォルニア左翼に遡る「電子的アゴラ」の共同体幻想を継承するとともに、アルヴィン・トフラーをブレーンとしたニュート・ギングリッチをはじめとする、政府の介入を排除した完全に自由な資本主義市場としての電子市場の実現を求める新右翼的なヴィジョンとも親和的である。インテルの元技術者であり、サイファーパンクの創始者とされるティム・メイは、彼が唱える「クリプト・アナーキー」の「アナーキー」とは、拘束のない経済交換を推進する自由主義イデオロギーとしての「アナルコ・キャピタリズム」における「アナーキー」と同義であることを認めている。(田中純『都市表象分析Ⅰ』、INAX出版、二五〇~二五一p)
ブルー・アント社の創始者ヒュベアトス・ビゲントの母親は、資本主義がうみだす「スペクタクル社会」(ギー・ドゥボール)を批判するシチュアシオニストたちと交流があったという。新左翼のこどもがウェブ時代のビッグ・ビジネスの担い手である、というこの設定は「カリフォルニア・イデオロギー」の変奏である(作中ではbig+endという相反する要素を伴う名前であることが強調される――この二重性は意図的なものだ)。
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