第1章

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 ところで、バーブルック=キャメロンはマルクス=エンゲルス『ドイツ・イデオロギー』をもじって「カリフォルニア・イデオロギー」と言ったが、これは間違っている。  マルクスたちは世界を解釈するだけのイデオローグを批判し、世界を変革することを説いたが、西海岸のひとびとは現に世界を変えた。  その変革を経た世界こそが、新三部作で描かれるグーグルとiPodがある現代である。 「クール・ハンター」、電子透かし、ステガノグラフィ、臨場感アート、iBook、GPS、eBay、データ・マイニング、リナックス……『PR』や『SC』に登場するテクノロジーや用語のほとんどは現実に存在する。  スプロール三部作では虚構のデータベース会社「データメリカ」だったものが、新三部作では登場人物たちがことあるごとに利用するグーグルやウィキペディアに替わっているといえる。  そして、かようなテクノロジーや文化はSFとの相互影響によってうみだされてきた。  スティーヴン・レヴィ『ハッカーズ』やスターリング『ハッカーを追え!』にはハッカーとSFの往復運動が記録されている。  Second Lifeはニール・スティーヴンスン『スノウ・クラッシュ』が描いた仮想空間「メタヴァース」を借用した。  ヴァーナー・ヴィンジ『マイクロチップの魔術師』は"サイファーパンク"のティム・メイやMIT伝説のハッカーであるリチャード・ストールマンを刺激した。  ギブスンの親友アイリーン・ガンはマイクロソフトではたらいていた。
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