第1章

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◆7、スタニスワフ・レフ『ソラリス』  バラードとならぶディストピア・アンビエント史上(そんな歴史はないが……)最重要作家のひとり。  人間以外の知性体を、人間らしく"なく"書くこと。  人間(の理解)とはことなるメカニズムでうごく知性(生物or機械)を書くこと――2000年代日本では野尻抱介、林譲治、藤崎慎吾、小川一水といったハードSF作家がこころみているが、文系SFにおけるその先駆者であり重要な成果がスタニスワフ・レフの諸作である。  代表作『ソラリス』は来訪者の欲望を反映する(らしい)海にみちた星ソラリスをえがいた。  ソラリスはまったく人間には理解不能な反応をかえす(それを解析するため人類は「ソラリス学」なる学問を蓄積してきたという設定の)星である。 『砂漠の惑星』も来訪者を排除する謎のシステム(?)が張り巡らされた星をえがいている。  後年レムは『完全なる真空』をはじめとするメタフィクションの作家になってしまったが、いまでも再読の価値があるのはメタフィクション以前の「SF」作品だとおもう。  レムの非人間中心主義的SFが音楽史に投げかけるものはこうだ。  どんな音楽も音楽である以上、聴覚、耳のメカニズムからのがれることはできない。  どんなに非人間的な環境音楽を構想したところで、その受容(聴取)の過程で、"人間の"聴覚生理学に左右されてしまう。  むろんこんなことは20世紀の現代音楽(のある種の失敗)から自明なことである。  しかしレムを演繹することでべつの可能性を提示することもできる。  われわれ以外の聴覚による聴取。  人間の聴覚の改造。  脳への作用によって聴取を変容させること。  音楽のための補聴器の開発……。  聴取する耳の仕組みのほうを変えてしまえば、かくじつにまったくことなる音楽像がえられる。  人間以外の生物/機械による、非人間的な聴取方法。
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