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◆5、J・G・バラード『結晶世界』
『沈んだ世界』The Drowned World(1962年)、『燃える世界』The Burning World(1965年)、『結晶世界』The Crystal World(1966年)はディストピア・アンビエントをかんがえるさいには必読。
『沈んだ世界』はなんたって「ドローン」だし……。
むろん、ニューウェーブSFといってもイギリスとアメリカではちがう(バラードとハーラン・エリスンを読み比べればわかる)。
さらにいえばイギリスサイドでもバラードの思い描いていたそれと、ニューウェーブSFの牙城『New Worlds』編集長だったマイケル・ムアコックの思い描いていたそれとではだいぶことなるように思うが、ともあれ、ニューウェーブは既成SFの前提をくずした(とされている)。
バラードの初期の代表的な短篇「死亡した宇宙飛行士」はタイトルからして「人類の進歩と調和」(大阪万博のテーマ)などといったものとは無縁の世界観をあらわしている。
そのニヒリスティックな世界観はハクスリーから線引きをすることもできよう。
バラードはあきらかに人間よりも結晶化していく世界の美に、退廃に焦点をあてていた。
バラードは人間中心主義を脱している。
進歩/退歩だとか新しい/古いといった概念からも逸脱している。
科学が野蛮をもたらす、というハクスリーやアドルノ=ホルクハイマー『啓蒙の弁証法』的な逆説さええがかれていない。
「人間」など野蛮だろうが進歩的だろうが、しょせんほろび、こわれ、死ぬ。
余談ながら、バラードはシュルレアリズムを参照してSFを書いたが、これはおなじ時代につちかわれた想像力を合流させたものとかんがえるべきだろう。
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